九州企業の衰退・勃興 平成を振り返る(13)
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新しいビジネスモデルが提供する足を使わない営業スタイル ベルフェイス(株)(後)
驚異の成長率にある根源、止まらないKAIZEN
ベルフェイスは、SaaS(Software as a Service、以下、サース)と呼ばれる業界に属します。サースとは、以前ASP(application service provider)サービスと呼ばれていたものとほぼ同様のサービスで、インターネットを通じてソフトウェアを提供することで、月額の利用料金を固定で徴収し、ストック収益することができます。これを積み上げていくことがとても重要です。これは年間契約になりますので、解約されない限りはずっと積み上がっていくものになり、会社の財務体制がとても安定します。
当社は15年4月に創業し、17年3月期決算の時点で、ストック収益額が約800万円、18年3月期決算で約2,000万円、19年3月期決算では約5,500万円まで上昇しました。年間契約には解約もありますが、新規で毎月約500万円ずつ増えているという状況です。このストック収益が毎月500万円ずつ加算していけば、仮に家賃1,000万円のテナントに入っていても、ほかの投資ができている状況となります。未上場の会社かつサース業界のなかで、トップ5内の成長率を誇っています。すでに東京のIT業界界隈でとても注目を浴びています。
当社は創業時から毎年、変革を続けてきました。事業の成長とともに、上場している大手企業さまとの取り引きも進めることができ、融資もより多く受けることが可能となりました。資金が増えることで投資額を増やすことができています。当社では、次のように投資しています。
たとえば、ホームページなどプロダクトなどのデザインを変更しました。これは海外への事業展開を見越した変更で、何百、何千という改善(KAIZENとは同社のValuesの1つ)を行っていきました。ほかにエンジニアの採用を行い、外注を中心に行ってきた事業の内製化に取り組んできました。また、創業当時は雑居ビルに事務所を構えていましたが、現在は東京の京橋駅に直結している東京スクエアガーデン内にある世界的に有名なコミュニティ型ワークスペースWeWorkにオフィスを構えています。
営業のソリューションにおいても大きく改善してきました。以前は、気合いと根性でやっている部分が多かったですが、マーケティング、セールス、商談設定、クロージングなどの部門・チームとより細かく分業を行い、それぞれに目標数字を設定しました。この営業ソリューションは、東京のIT関係の会社から勉強しにきていただけるぐらいのレベルです。新規だけなく、既存のお客さまのフォロー、継続率の向上にも力を入れています。
たとえば、お客さまの満足度の統計分析、継続にかかわる状況分析などです。これは契約更新時にしかお客さまの状況が把握できないのであれば、継続率を上げるのは非常に困難なためです。サービスをそもそも利用しているのか、ログインはしているのか、営業の際に資料をアップできる機能を活用しているのか、当社発信のメルマガを開封しているのかなどの多くのクラウドにある情報中心に取得し、さまざまな評価基準をつくり、ヘルススコアという指標をつくりました。
そこで0〜100点までの点数をつけて、企業の状態を見極めています。試行錯誤を続け、何点以上になると継続率が高いのか、何点以下で解約の危険があるのかなどの分析が可能になります。解約の可能性が高いと判断できる企業に専門のコンサルタントを派遣し、相手に合わせた最適のコンサルティングを行い、継続率をより効果的に上げていく体制を徹底的に行っています。
広告費用に毎月約4,000万円の投資を行うなど、広報にも力を入れています。単純に投資額を増やすだけではなく、広報部門で働く社員の評価基準も改善してきました。広報部門に定めている目標を曖昧にするのではなく、経営陣が掲載してほしい企業やメディアを提示し、掲載できた場合は点数をつけることで、数字で目標を立てています。営業同様に目標数字を達成した場合、歩合で給料を支払う評価基準をつくり、より戦略的な体制を構築しました。
結果、問い合わせ件数も大きく増加しました。月間の問い合わせ件数が1日約250件、19年3月の時点で1カ月あたり約900件、5月には1,000件を超えました。これは1日約50件の問い合わせをいただいている状態です。現在は、問い合わせ件数に対して、営業が間に合っていない状況なので営業能力強化を急いでいます。
先を見越した巨額の投資
「名乗りを上げた1年」
19年3月期の売上高は約4億7,000万円でした。このままのペースでいけば、20年3月期は12~13億円の売上高を見込めます。業界にもよりますが、企業の評価基準で重要視されている指標の1つにストック収益があります。銀行や投資家も隔月の収益金額に注目し、事業評価を決めている傾向があります。19年3月期時点のストック収益は約5,500万円でしたが、20年3月期決算時点で1億5,000万円まで引き上げることを目標にしています。
創業時から急成長を遂げてきた当社ですが、実は毎年大変な赤字を計上しています。19年3月期の決算書を見ると4億7,000万円の売上高に対し、4億3,000万円の赤字を計上しています。20年3月期も約7億5,000万円の赤字を見込んでいます。投資の内訳としては、開発費(外注費のみ)で約3億円、広告費で約7億円あります。連続赤字という財政状況ですが、これはまったく心配ないものです。なぜなら投資している開発費、広告費はすぐに中止することができるからです。東京のIT系の会社は、このように赤字を計上しながら取得収益の基盤をつくっていく傾向があります。
最近は、金融機関の判断基準も変わり、これだけの赤字を計上しても、コントロールが可能な赤字、売上を上げるための投資、毎月のコストと収益の健全性をみて判断し融資していただける機関が増えてきました。もちろん、投資家の信用問題も要因の1つにありますが、金融機関もサース業界、ビジネスモデルに対して見方が変化していることを感じています。
すべての経験から生まれたビジネスモデル
前職時代に培った約1,000人の社長インタビューなど、多くの失敗と成功などを積み上げてきた経験から、私はビジネスモデルを確立していくうえで重要なことが3つあると考えています。
1つは、マーケット選びです。今後伸びていく見込みがあるマーケットで勝負すること。勢いがあり、時代の流れがきているマーケットでは、人材も集まりやすく、資金も集まりやすいメリットがあります。それは業界のシェア率が変らなくても、マーケット拡大の作用で売上高、利益が増えていくためです。
「インサイドセールス」というマーケットを例にします。2~3年前は、インサイドセールスというキーワードがあまり浸透していなかったと思います。現在、インサイドセールスは、IT系、外資系を中心に瞬く間に広がっています。インサイドセールスを取り組む企業が増えていくなかで、専門の営業ソリューションでは、ベルフェイスがNo.1という実績をつくりました。そこで、インサイドセールスの勉強会、セミナーの開催をしてほしいと多くの企業から声がかかるようになり、問い合わせ件数も急激に伸びました。
新規事業を立ち上げようと考える経営者の方は多いです。しかし、マーケット選びをされている経営者の方は意外と少ないのです。仮に、同じ業界のなかで新規事業をする場合でも、カテゴリーをより細分化し、伸びる見込みがあるマーケットでなければ、「既存企業という逆風」に晒され続けてしまいます。今後、縮小すると見込まれる業界(=シュリンク業界)では、とくに厳しいでしょう。すでに入っている業界が縮小していたとしても、カテゴリー別で考えれば、伸びるところと伸びないところに分けることができます。シュリンク業界の経営者こそ、新しい業界にチャレンジすべきだと思います。伸びるマーケットに狙いを定めて勝負を仕掛けていく、これが新規事業の第一の鉄則だと思います。
2つ目は、優秀な人材の確保です。私は前職時代、優秀な人材とは「社長に可愛がってもらえる人物」と表現していました。とくに営業マンには、そのような人物を強く求めていました。前職時代には、私自身のキャラクターと会社のブランド力で約100人の人材が集まりました。しかし、人数だけが集まっても、それに見合うパフォーマンスは発揮できません。
当社では、優秀な人材のことを「ハイパフォーマー」と呼称し、3つの素質がある人としています。それは、論理的思考力・実行力・人間関係構築力という素質です。論理的思考能力だけをもっている人はただの批評家ですし、実行力だけでは効率が悪いだけでなく、成果が出ない場合もあります。そして、人間関係構築力をもたなければ、チームは成り立たず、社内関係は悪くなり、企業全体のパフォーマンスは下がってしまいます。コンセプトやマーケットが非常に良くても、優秀な人材がいなければ意味をなさないことが多いです。優秀な人材を獲得するうえで、とくに私が心がけているのは「報酬をケチらない」ということです。
当社は資本金90万円の苦しい時期でも、年収1,500万円で営業マンを雇っていました。私よりもはるかに高い給料を支払ったのです。とくに新しく生まれた業界ではなく、昔からある業界は、優秀な人材にとって魅力を感じにくいことがあります。そのようななかで、報酬まで“ケチって”しまったら優秀な人材は来ないですよね。もし優秀な人材を見つけたときには、その人の年収が1,000万円や1,500万円となっても関係なく採用し、その人がパフォーマンスを最大限発揮できる環境をつくることが大事です。投資をせずに優秀な人材は獲得できません。
最後は、ビジネスモデルです。効率的で、儲かるビジネスモデルをつくらなければなりません。そのうちの1つが「値決め」です。稲盛和夫さんも「値決めは経営である」と仰っておりますが、値段を考え抜いている経営者の方は少ないです。市場をしっかりと見極め、しっかりとした値決めをしなければ意味がありません。bellFaceは、現在毎年値上げを行っています。それは、「値上げする理由をつくる」努力をしてきたからです。たとえば業界No.1の実績をつくる、新しいサービス・機能を提供するなどです。この努力をせずに、値上げをすることは困難ですし、値上げをすることで利益も拡大していきます。
もう1つは、「お客さまがお客さまを呼ぶ環境」をつくることです。これは紹介とは少し違います。たとえば、当社では次のような流れができています。既存のお客さまが営業でbellFaceを活用してくださると、お客さまの営業先の方もbellFaceを体験していただくことになります。すると、初めてbellFaceを体験した営業先の企業が「自分たちでも活用できないか」ということを検討し、当社に問い合わせをしていただけるかたちになっています。bellFaceのサービスは、当社サイトを開いて利用するため、問い合わせを考えている企業は、改めて調べる必要もないです。問い合わせをしてくださった企業が、お客さまになり、お客さまになった企業が、ほかの企業に営業をしたときに同様のことが起きていく環境になっています。
この環境を生かしていくためには、より多くのお客さまにより多くのサービスを使っていただくことが必要です。そのため、当社は既存のお客さまが、サービスを利用してくださることでの成功を必死になってお手伝いしています。それはお客さまとの利害も一致します。当社の場合、アウトバンド商法のように新規先に電話を掛けたりするよりも、既存のお客さまがより多くサービスを利用して成功すればするほど、新規獲得につながっていくビジネスモデルを展開しています。
業種業界にもよりますが、ビジネスモデルというのは、「商品をどこに売る」こと以外にもさまざまな工夫余地があります。固執してしまった考え方にこだわり形骸化させるのではなく、常に変化することを前提に考え続けなければならないと思います。当社が次に目指しているのは、「世界中の誰もがもっている根本的なニーズに応えていくサービス」の提供です。今、提供しているサービスを日本国内だけで求められるサービスに仕上げるのではなく、ブラッシュアップし続けることで、「日本人でもアフリカ人でも同じ価値を感じてもらえるプロダクトに仕上げる」ことを目標にしています。そのため当社では、私を含め、常に社員全員で考え抜きながら新しいアイデア、ビジネスモデルを創造しています。
(続く=この項了)
<プロフィール>
中島 一明(なかじま・かずあき)
ベルフェイス(株)代表取締役社長。福岡市出身、1985年生まれ。15歳で起業を志し、高校を中退。その後、19歳で世界約30カ国をバックパッカーとして旅する。21歳で(株)ディーノシステムを設立、「社長.tv」と呼ばれる広告メディアを展開し一世を風靡する。しかし、紆余曲折を経て2015年に同社を退社。同年ベルフェイスを立ち上げ、画期的なサービスを展開し、その圧倒的な成長率からIT業界でも注目を浴びている。関連キーワード
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