【現場レポート】ICT土工のメリット、デメリットを探る
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糸島市にある中村組(株)(中村陽介社長)は従業員7名の小さな建設会社だ。同社は現在、福岡県発注の県道54号福岡志摩前原線の道路改良工事(工期2月2日〜6月28日)を請け負っている。この工事は、新たに道路を通すため、山を削り、法面を整形するもの。工事自体は一般的なものだが、ICT施工(土工)として行われているのが、注目ポイントだ。同社がICT施工を担当するのは今回が初めて。ICT機材なども持ち合わせていなかった。そんな同社がなぜ、ICT施工を請け負ったのか。ICT土工のメリット、デメリットについて、取材した。
協力会社のサポートでICT土工を実施
中村組が請け負った現場も同じ道路改良工事。前の現場は、福岡県発注工事としては初のICT施工事例だった。請け負ったのは松隈重機工業(株)(以下、松隈)。中村組がICT施工に手を上げたのは、松隈からのアドバイスによるものだった。松隈もICT施工の実績はなく、ICT機材ももっていなかった。ICT施工ができたのは、協力会社のおかげだった。現場代理人の中村隆・中村組専務は「松隈の人から『ICT施工は楽で、正確』と言われた。協力会社さんのサポートがあれば、大丈夫だろう」と判断した。松隈の協力会社として入っていた会社をそのまま引き継ぎ、ICT施工にチャレンジすることになった。
中村組の現場は土量1万1500m3。比較的土量が大きく、発注者の県としても、ICT施工のメリットが見込める現場だった。発注者希望型のICT土工にしたのもうなずける。
丁張り不要は大きなメリット
ICT土工の最大のメリットは、通常の施工では必須の丁張りの設置が不要になる点だ。丁張りとは、設計図に基づき、地面に杭などを打って、重機などによる掘削作業の目印を指す。通常の土木現場では、仕事が始まらない基本中の基本の作業だが、最低でも2名の人手を要する。ここでミスがあると、現場はガタガタになる。
ICT施工では、ドローンで起工測量し、完成後の断面などを3Dデータ化。このデータをマシンコントロールを備えたバックホウに入力することで、丁張りがなくても、自動制御での掘削、切り土が可能になる。「この現場では8mほど掘削したが、通常であれば何度も丁張りを繰り返すところを、機械任せで一気に掘削できた。とにかく楽だった」(中村専務)と振り返る。作業自体はスムーズに進んだほか、丁張り作業のための人員2名を削減できた。
ただ、ICTでのバックホウ操作も万能ではない。たとえば、法面の角の部分の切り土は、重機の足元を整えたり、事前の準備が必要で、その辺を熟知したオペレーターでなければ、精度の高い施工は難しい面がある。
最大のネックはコスト。採算がとれるかどうか
施工面では良いことばかりのICT施工だが、問題はコストだ。ドローンによる起工測量やマシンコントロールの手配には、通常の倍以上のコストがかかる。ICT施工により増加した分のコストには、県が契約金額に上乗せすることになっている。ただ、「県がどれくらい金額をみてくれるのか、今の時点ではわからない。もし上乗せ分が少なければ、採算がとれなくなるリスクがある」(同)と不安がある。
ICT施工(土工)に対して積極的な地域建設業者はいまだ少ない。その理由は「とにかくコストが問題」(同)だと指摘する。県は今年4月以降、ICT土工の受注者希望とする対象工事規模を「土量1000m3以上、3,000万円以上」に引き下げているが、「その程度の規模で採算がとれるかどうか」(同)と懐疑的だ。そもそも「受注者希望型」としている時点で、発注者サイドの腰が引けた印象を与える。役所の人間から「これやっといてくれないかな。費用はあとでみるから」と頼まれて、やったところが、反故にされたというのは、現場代理人の「あるある話」でもある。
最後に、「次にまたICT土工をやりますか?」と質問すると、「ぜひやりたい」(同)という答えが返ってきた。ただ、「採算が取れれば」(同)という条件付きで。
【大石 恭正】
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