2024年12月27日( 金 )

華南経済圏視察を振り返って~トランプ大統領の恫喝に屈せず(3)長期戦になれば華為技術(HUAWEI)の勝ち

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経済開放政策の先進地域

 6月24日夕方、船で深圳(しんせん)に入る。時間は1時間弱要した。香港では蒸し暑さに閉口したが、夕方スコールが降る。定期的に降ってくれれば、多少の気分転換にはなる。

 中国を頻繁に往来する日本人でも広東省、深圳にまで足を伸ばす人は少ない。まして、福岡出身者が、この地で事業に成功したケースは稀である。しかし、縁があろうとなかろうと、都市・深圳は猛スピードで世界有数の「シリコンバレー」へと変貌していった。そして、ここ深圳にはトランプ大統領が目の敵にしている華為技術(ファーウェイ)の本社があるのだ。

 現地に行って知ることは多い。深圳の土地に立ってみて、初めてわかることばかりで、中国共産党の現代史を考えるきっかけとなった。

 1975年以降、中国は経済の立て直しが最重要課題であった。権力を握った鄧小平は、まず農業の生産性アップに取り組み、農業の請負制を導入した。そこで話題になったのが万元戸である。「農家で年収一万元以上になった者が現れだした」ともてはやされたのである。要は毛沢東による集団生産性の農業政策に見切りをつけ、収入が増える者が先行しても構わないという大胆な経済政策を推し進めたのだ。

 次に経済特区を導入し、深圳など全国5カ所を指定した。鄧小平は「深圳は香港に隣接しているので地の利が生かせる」と判断したのであろうか――。約40年前のことだ(華為技術の設立は1987年)。

 これが見事に当たった。鄧小平の最後の偉業は彼の先見の明によって成し遂げられたのである。当時、人口30万人足らずの宝安県は、今や人口約1,400万人の深圳市となり、世界の工場地区へと変貌した。

 今さら悔やんでも仕方がないが、その当時に一度は、現地に足を運ぶべきだったと思っている。なぜ反省するのかというと、筆者は上海浦東開発の動向を見守ってきたからだ。かなりの数のレポートを書いてきたという自負もある。上海浦東開発担当の役人たちも深圳の開発状況を視察して参考にしてきたはずだ。

 深圳の大成功が、中国を世界の経済大国へと押し上げる牽引役となったのだ。

中国全土から大卒の若者を惹きつける

 ガイドのCさんは40代半ばの女性である。「出身は吉林省」と語っていたので、即座に「朝鮮族」だと判断したが、見事に当たっていた。昔の満州、東北3省は経済発展で後れを取っている。大連でさえ近年5年間の経済成長率は精彩がない。この地区は昔ながらの重厚長大型産業で発展してきたのだが、今流の産業への転換が遅れたため為、時代に取り残されるという運命をたどっているのだ。

 Cさんは強調する。「深圳は中国で一番、若い都市です。人口の65%が20~30代で占められています」と。そうなのだ!深圳は中国全土から若者を惹きつけ、集めている土地なのだ。

 深圳の魅力が爆発しだしたのが、1980年代の終わりごろからである。大学を卒業したものの、東北3省には適当な就職先がない。だから、驚異的な経済発展を続けている深圳に多くの若者が魅了されたのである。

 10年前、広州市でB女史と同じような境遇の人と遭遇したことがある。この長春出身の女性は大学卒業後、希望する職場がなく、南に下り広州にやってきた。「冬の時期も暖かくて幸せ。二度と冬場に故郷には帰らない」という言葉が印象的で、今でも鮮明に覚えている。

 上記2例のように深圳は、中国全土から大卒の若者を惹きつけてきた(東北3省に滞在している大卒者は激減していると予想される)。この若者たちが深圳の大躍進を支えてきたのだろう。

 深圳に本社がある華為技術は中国全土の大学、高校、専門学校を卒業した理系の学生たちをかき集めている。今年は1万人単位で人材を採用するのではないか?中国国内から若手の人材をかき集める策を取っており、トランプ大統領との長期戦を覚悟した用意周到な準備だといえよう。

 ただC女史の「隣の広州市は歴史があり、地元の人たちは蓄えがあって、おっとりしています。一方、深圳は大半がよその土地からきた人たちです。だから、必死で競争を続けていかなければ、脱落してしまうと懸念しているのです」という言葉が気になった。現役を全うするには、まさしくアメリカのシリコンバレーと同様、過酷な競争に打ち勝たなければならないのだろう。

迅速な変わり身が身上

 深圳を車で走ると意外に往来数が少ない。道はきれいで整理されており、中国では珍しく清潔感が漂う都市だ。走行している車の4割は電気自動車である(公的機関のバスはすべて電動車)。アリババによる実験用の無人店舗もあちこちでみかける。

 ここで強調したいのは、深圳には先進的な取り組みに挑戦する風土があるということだ。その先導役を華為技術がはたしてきたのである。

 深圳の第一期躍進の原動力は、世界の工場の役割を務めたことで、あらゆる業種の町工場が乱立することになった。人件費の安さから、台湾、韓国の企業も進出してきた。

 華為技術も町工場のようなかたちでスタートし、ハイテク部品の製造をしてきた。経済発展をすれば人件費が高騰する。付加価値に乏しい産業は深圳では成立しない。2000年半ばに「深圳のメリットはなくなった」と悲観論が台頭し、中小企業の倒産も相次いだ。

 方向転換、業種の大改造は中国政府・自治体のサポートもあっただろうが、大半は企業家の努力によりなされた。人件費圧縮の素材型企業は東南アジアへ、また中国奥地へ、または隣接地・東莞市へ移転してしまった。深圳市から一瞬にして町工場が消滅したのである。それでも深圳市の勢いはとまらなかった。シリコンバレー=先端産業・ICT産業への産業構造革命を短期間で成し遂げたのである。そのリーダー役が華為技術であることはいうまでもない。

 華為技術本社の前に立ち、考えた。ハイテク部品をつくる鉄工所から、いまや世界屈指の通信機器開発業者となった。そして、トランプ大統領が目の敵にする5Gのプラットフォーム建設(基地局)事業を世界で展開するようになった。

 世界のICT産業の中心になろうという華為技術の挑戦に深圳全体が引きずられていったのである。結果、世界のシリコンバレー都市=深圳という評価が定まった。

 この会社のトップたちは人民軍の研究員だったと聞く。会社名が凄いではないか!!【華為技術】、意味は誰でもわかる。「中国人民のためになる技術を開発していく」というミッションを堂々と公言している。

 本社前に立って確信した。このように使命を明確にしている会社がトランプ大統領の恫喝に屈するはずがない。これが、今回のツアーの目的(2)「ファーウェイ(華為技術)の本社を見て、同社がアメリカのトランプ大統領の恫喝に屈するのかどうか」の回答である。

(つづく)

(2)

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