ソフトバンクの孫社長が「後継者候補」にアローラ氏を指名した狙い(後)
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スカウトされたアローラ氏は海外M&A戦略を担う
ニケシュ・アローラ氏は、インドの名門バナーラス・ヒンドゥー大学出身。米国に留学し、ノースイースタン州立大学でMBA(経営学修士)を取得。金融機関で通信業界のアナリスト、Tモバイルの要職を歴任。2004年にグーグルに入社し、ビジネス部門の最高責任者を務めた。12年に現金と株式で5,100万ドル(約60億円)の最高額の報酬を得たことで知られる。
ソフトバンクがスプリントを買収してシリコンバレーに本拠を構えてから、孫氏とアローラ氏はたびたび会うようになった。アローラ氏は孫氏を「マサ」と呼ぶほど、親交が深まった。昨年の夏、アローラ氏は、故郷のインドで休暇を過ごしていた。その時、孫氏から電話があった。インドに投資したいというのだ。アローラ氏はメディアとのインタビューで「さまざまな企業50社を検討し、2週間で3社に投資することを決めた」と当時を振り返っている。その3社が、前回触れたスナップディール、ANIテクノロジー、ロコン・ソリューションズである。
アローラ氏は昨年7月18日、グーグルを退社。同年10月、ソフトバンクの副会長に就いたアローラ氏は戦略投資子会社であるソフトバンク・インターネット・アンド・メディア(SIMI)の最高経営者(CEO)を兼務した。SIMIが海外M&Aを担った。
SIMIが手がけた投資案件は、インドの3社のほかに、米映画会社レジェンダリー・エンターテインメント(14年10月、出資額約270億円)、インドネシアのネット通販会社トコペディア(14年12月、同約110億円)、シンガポールの配車サービスのグラブタクシーホールディングス(14年12月、同約300億円)、中国の配車サービスのトラヴィス(15年1月、同700億円)がある。
現在、出資交渉しているのが、インドのスマホメーカー、マイクロマックス・インフォマティクス。株式20%を最大10億ドル(約1,200億円)で買収するため、交渉に入っているとロイター(3月26日付)が伝えた。マイクロマックスは08年にスマホ市場に参入。インドでのスマホの出荷台数のシェアは18%で、業界第2位という。第2のアリババを育て、時価総額200兆円を目指せ
孫社長は戦略を転換した。スプリント買収の挫折で、海外のインターネット関連企業への投資に成長に軸足を置いた。ソフトバンクのビジネスの原点に戻る。
孫氏の商法が成功した起点は、インターネット情報検索の米ヤフーへの投資だった。設立したばかりの米ヤフーに115億円に出資。米ヤフーの株価は一時、3兆円もの含み益を生むまでにはね上がった。高騰した米ヤフー株が、その後の事業展開の軍資金となった。
中国電子商取引アリババ集団も同様だ。アリババと孫社長の関係は、1999年に英語教師の馬雲(ジャック・マー)氏のウェブサイトにソフトバンクが20億円出資したことに始まる。アリババ集団は昨年9月19日、ニューヨーク証券取引所に上場した。初値でのアリババの時価総額は25兆円に達し、インターネット関連では過去最大の新規公開となった。筆頭株主のソフトバンクは、7兆円以上の含み益を得た。孫社長のネット分野で優れた新興企業を見つける「目利き」は、世界的に高い評価を受けた。
こうして見てくると、孫社長がインド出身のアローラ氏を三顧の礼で、後継者に迎えた狙いがはっきりする。今後、IT分野で成長が期待できるインド市場で、アリババに続く成長企業に投資して、育成していくことにある。
孫氏は10年6月25日に開いた「新30年ビジョン発表会」で、30年後に世界の企業のランキングのトップ10入りを果たし、時価総額200兆円規模の会社になる――という壮大な目標を掲げた。800社だったグループ企業を、30年後には5,000社に拡大するとした。
時価総額200兆円を目指すこと。アローラ氏に課せられた使命である。(了)
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