【認知症対策の課題】経産省の認知症対策実証事業がスタート 官民が連携し「検査法の確立」「予防商品の開発」へ 官民が連携し「検査法の確立」「予防商品の開発」へ
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少子高齢化で認知症対策が国家的な課題となるなか、経産省は19年度から「認知症対策官民イノベーション実証基盤整備事業」を展開する。
同事業は2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」のなかに、「認知症の人に優しい」製品・サービスを生み出す実証フィールドを整備することが明記されたことを受け、実施するもので、産学官民が一体となって、認知症の早期予防から発症後の生活支援、社会受容のための環境などを整備していく。
認知症は、有効な治療薬がないため、進行すると改善が難しいことから早期段階での対応が不可欠。このため経産省では、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)をハブ拠点に、研究機関や民間事業者などが取り組む検査方法の確立や予防サービスの開発などを推進していくことにした。
新たなヘルスケア産業の育成に結びつける
認知症の人は現在約500万人で、2025年には700万人を超えると予想されている。認知症患者がこのまま増え続ければケアを担う介護スタッフの確保が不可欠だが、国の試算によると、35年には介護従事者が約79万人不足するという。このため認知症の人を抱える家族や介護職の負担を減らすとともに、認知症になってからもできる限り長い期間、自立・安心して暮らすことができるよう、支援するサービスや製品を開発することが課題となっている。
5月10日に都内で開催された業界団体セミナーで講演した経産省・商務サービスグループの青木幹夫参事官は、高齢化対策の問題について、「少子高齢化とは14歳以下の人口と65歳以上の人口が逆転して、高齢者人口が増える社会だが、今の社会保障システムはこのシフトチェンジが始まったころにつくられた制度なので、当然このままでは制度がもたない。だから生涯現役社会をつくり、できるだけ長く健康で働き続けられる社会を構築することが大事。
とくに男性は、定年後に何もしないで家でブラブラしているとフレイルになり、心身ともに弱ってしまう傾向がある。それを防ぐ意味でも社会貢献活動をするなど社会との接点をもち、頭と身体を使う時間をできるだけ長くして、元気に過ごしていただきたいというのが、我々のメッセージでもある」と述べた。
さらに、イノベーション実証基盤整備事業の狙いについては「認知機能のスクリーニング評価や予防法の効果を実証して、新たなヘルスケア産業の育成に結びつけていきたい。現在100を超える企業、研究機関、大学がコンソーシアムへの参加登録を行っているので、経産省としては官民の取り組みをしっかり後押ししていきたい」との考えを示した。
多因子介入研究など4テーマを採択
AMEDがコンソーシアムを募るために、18年10月に開設した「情報登録サイト」には現在、スクリーニングやソリューションの分野で113機関が登録している。官民連携プラットフォームは、自治体・介護施設・研究機関などが参加する「実証事業」と、民間企業と研究機関が参加する「サブスタディ」がある。このうち実証事業について、今年1月下旬から3月7日までに具体的な事業テーマを公募したところ、49件の申請があり、このうち4月末までに4件が採択された【表参照】。
採択課題で注目される研究テーマに、国立長寿医療研究センターが取り組む「認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究」がある。経産省・ヘルスケア産業課の高橋正樹課長補佐は、「フィンランドのFINGER(フィンガー)研究のように、運動や食事などのマルチ介入で予防効果を探る疫学研究は、これまでに日本では行われていなかった。多因子介入研究の結果によってはさまざまなアプローチが考えられるので、研究の行方を注視していきたい」と話す。
09年から11年にかけてフィンランドで行われたフィンガー研究「高齢者の生活習慣への介入による、認知機能障害予防の研究」は、1,260人(60~77歳)を、「生活習慣改善グループ」と「対照グループ」に分け、前者には食事療法、運動指導、脳トレーニングなどを、後者には定期的な健康アドバイスを実施。試験開始前と1年後、2年後に「認知機能テスト」を行い、結果を比較した結果、「対照グループ」は「生活習慣改善グループ」よりも、約1.3倍、認知機能低下のリスクが高いことがわかったという。
今回の実証事業で、マルチ介入によって一定の予防効果が実証されれば、どのアプローチを組み合わせれば予防効果が期待できるのかといったさらなる研究につなげることができ、また、企業が研究に加わることで商品開発など新しいビジネスチャンスの創出も期待できる。一方、民間資金等で実施するサブスタディでは、NEC、大日本印刷、エーザイ、沖電気などの大手企業が中心となりコンソーシアムを組む。
医療以外でも活用できる評価指標を確立する
今後の方向性について前出の高橋課長補佐は、「認知症対策ではリスクを提言したり、進行を抑制する、または自立支援、社会受容といったニーズが考えられるが、利用者からみると何が良いのか、評価の判断基準がない。事業者が独自で製品・サービスについてエビデンスを提示する場合もあるが、評価指標(認知機能検査など)や評価手法(対象者、介入期間など)がバラバラで、効果の比較が難しい状況にある。
また、いきなりこの指標だけを使いましょうというのもおかしな話で、特定の指標以外のものが規制対象になり、市場にダメージを与えてしまう懸念もある。このため本事業を通じて、統計的な有意性を確認するための評価指標・手法(メソドロジー)について、科学的な妥当性に加えて、医療関係者以外の方でも広く活用できるレベルで立証されたものを確立していく、ということをポジティブな文脈のなかで目指していきたい」と説明する。
認知症施策をめぐっては、政府が一体となって総合的な対策を推進するため、18年12月に「認知症施策推進関係閣僚会議」が設置された。さらに、今年4月22日には、経産省と厚労省をオブザーバーに、経済界、産業界、医療・介護業界、学会など101団体が参加して「日本認知症官民協議会」が設立された。実証基盤整備事業は、官民協議会と連携しながら進めていくことになる。高齢化社会という点では世界の最先端を走る日本。2060年には世界中が日本と同じ状況となると予想されているだけに、各国は日本がどのような高齢化対策をとるのかを注目している。
【取材・文・構成:吉村 敏】
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