【埼玉県知事選2019】翔んだ埼玉!~「埼玉県知事選ショック」が安倍自民党を直撃
-
■菅官房長官の“勝利の方程式”に陰り
8月25日投開票の埼玉県知事選で、立憲民主党や国民民主党など野党4党が支援した大野元裕・前参院議員が、自公推薦のスポーツライターの青島健太氏らを破って初当選、安倍自民党に衝撃が走っている。大野陣営の若手選挙プランナーの松田馨氏が「奇跡の大逆転勝利」と表した通り、当初は知名度の高い青島氏がトリプルスコアでリード、告示前から菅義偉官房長官や岸田文雄政調会長ら自民党大物議員が続々と現地入りしたのにもかかわらず、約5万7千票差の敗北を喫したのだ。
「参院選(7月21日投開票)」でも安倍首相が2回応援演説に入った激戦区は2勝6敗と負け越し、天王山となった32の1人区でも野党統一候補が10勝と善戦。国政選挙で連戦連勝してきた安倍政権に陰りが見える結果となったが、そんな退潮傾向が埼玉県知事選でさらに拍車がかかることになったのだ。
「枝野幸男・立憲民主党代表(衆院埼玉5区)のお膝元での県知事選勝利で野党第一党にダメージを与えようとして“全力投球”をしたのに、逆転満塁ホームランを打たれて想定外の敗北を喫した形。今後の政権運営を左右する重要選挙での勝利に貢献してきた菅官房長官の“勝利の方程式”が崩れたのも、大きな痛手です」(永田町ウォッチャー)。
菅氏が選挙において常用する「2枚の切り札」は、懇意な佐藤浩・創価学会副会長を通じての“学会員フル稼働選挙”と、官邸御用達選挙プランナー・三浦博史氏(「アスク社長」)の登用だ。自公推薦候補が勝利した昨年6月の新潟県知事選、さらに4月の北海道知事選でも、『洗脳選挙』の著者であり争点隠し選挙が得意な三浦氏が現地に張り付き、創価学会もフル稼働していた。司令塔役・菅氏の息のかかった人たちが動いて、野党系候補に競り勝ってきたのだが、なぜか、埼玉県知事選では通用しなかった。
「今回も、菅官房長官・佐藤副会長ラインで支援要請が発せられたようですが、参院選後の選挙疲れと夏休み期間でもあったことから、高齢化が進む創価学会員はフル稼働に程遠かった。しかも参院選で公明党は比例票を約百万票も減らし、安倍政権を下駄の雪のように支え続ける佐藤副会長に対する学会員の反発も強まっています。今後も創価学会の集票力が右肩下がりで落ちて行き、菅官房長官の選挙での“神通力”も効きにくくなっていくのは確実です」(永田町ウォッチャー)
■官邸御用達の選挙プランナー・三浦博史氏が師弟対決に敗北
もう一枚の切り札である三浦氏も今回、弟子に当たる若手選挙プランナーの松田氏との“師弟対決”で苦杯をなめた。青島氏の街宣場所に連日のように駆け付けていた三浦氏だが、参院選後に急きょ大野氏の選挙プランナーに就任した松田氏に、まさかの逆転負けをしたのだ。
「松田氏が大野陣営に加わった頃から雰囲気が一変しました。参院選直後は、青島氏に大差をつけられてあきらめムードさえ漂っていましたが、上田清司知事が『勝てる』と激を飛ばしながら応援演説をする一方、松田氏もセンスのいいビラ作成やデータに基づく助言などで関係者が勝利に向けて結束、逆転ムードが盛り上がっていきました」(地元記者)。
小池百合子知事率いる「都民ファ―ストの会」が圧勝した2017年夏の都議選で選挙プランナーを務めた松田氏に声をかけたのは、それまで面識がなかった鈴木正人・埼玉県議会議員。「当初は選挙プランナーがおらず、配りたくなくなるデキの悪いビラしか作っていませんでした。『これでは勝てない』と思って、小池百合子知事の秘書だった野田数氏に『都議選圧勝の時の選挙プランナーを紹介してほしい』と頼んで松田氏を紹介してもらい、投開票まで1カ月という時期に引き受けていただきました。それ以降、配りがいのあるセンスのいいビラに変わり、地域別の選挙対策も次々と打ち出され、逆転可能という雰囲気が盛り上がっていきました」(鈴木氏)。
■「中央 対 地方」の構図も野党系候補勝利の追い風
松田氏が加わった大野陣営が強調したのが、「地方 対 中央」「上田県政継承の県民党候補 対 官邸傀儡候補」という構図だ。ラストサンデー前日の8月17日には、枝野幸男・立憲民主党代表と玉木雄一郎・国民民主党代表がそろって応援演説に駆け付け、枝野氏が「誰かの操り人形のようなリーダーではいけない」と青島氏を“官邸傀儡候補”と示唆すると、玉木氏も「税金を払う側の立場に立って仕事をしてきた大野さんを知事に」と前参院議員としての実績を訴えながら、中央とのパイプの太さをアピールする補助金依存志向の青島氏との違いを際立させた。
実際、公共事業推進に前向きな青島候補の演説を聞くと、自民党的バラマキ県政を復活させようとしていることは明らかだった。その代表的な公共事業が県庁の建替。必要な費用は約421億円(試算値)で、青島氏が「できるだけ早期に」と賛成の立場だったのに対して、大野氏は「今すぐの着工反対」と慎重姿勢を崩さなかった。公共事業に抑制的だった4期16年の上田県政を継承するのか否かも、県知事選の大きな争点の1つとなっていたのだ。
青島氏が“官邸傀儡候補”に見えたことは、他にもあった。ラストサンデーの8月18日、菅氏が朝霞市と川越市で次のような応援演説をした時のことだ。
「(第2次安倍政権が誕生した2012年12月に)政権交代をする前は(訪日外国人観光客は)836万人で、昨年は3,119万人に増えた。それだけ日本に来てくれれば、お金も使ってくれます。消費額は昨年4兆5千億円でした」「来年は2020年、東京オリンピック・パラリンピックがあります。(訪日外国人観光客の)目標を4,000万人にしています。完全に射程の中に入っている。2030年には6,000万人を目標にしています。こうしたことができるようにしっかりと行っていきます」。
外国人観光客増加をアベノミクスの成果とアピールするのは菅氏の“定番ネタ”だが、日韓関係悪化で訪日韓国人が激減していたのに、「2020年4,000万達成」の目標を下方修正しないことには驚いた。そこで、応援演説を終えた菅氏を直撃、「日韓関係悪化でインバウンドが減ってしまうのではないか」と声をかけたが、何も答えないまま、車で次の街宣場所に走り去った。
2カ所目の川越市での応援演説でも菅氏は外国人観光客増加を安倍政権の成果と訴えながら、東京五輪についても触れたので再直撃をして、「日韓関係悪化で五輪ボイコットの話も出ていますが、日韓関係を改善しないのですか」と聞いたが、ここでも菅氏は無言のままだった。
元プロ野球選手でスポーツライターでもある青島氏にも、スポーツ交流に悪影響を及ぼしている日韓関係悪化について聞いたが、「その質問はいま答えられない」と言うだけ。安倍政権の対韓強硬外交に何らコメントをしないことも、青島氏が官邸の「操り人形」になる可能性を示唆するものとなった。
「中央 対 地方」「官邸傀儡候補 対 県民党候補」という構図が一定程度広まったこともあってか、与野党一騎打ちを実質的な野党統一候補が制した。大野氏勝利を受けて玉木代表は「与野党激突の厳しい戦いを制したことは、次期衆院選に臨む我々にとっても大きな展望を切り拓く」「より一層の野党連携を進める」という談話を発表した。
10月には大野氏辞職に伴う参院選埼玉選挙区補選があり、県知事選勝利の勢いで野党系候補が連勝する可能性は十分にある。次期衆院選に向けた安倍政権打倒の狼煙が上がりそうな埼玉から目が離せない。
【横田 一/ジャーナリスト】
関連キーワード
関連記事
2024年11月11日 13:002024年11月1日 10:172024年10月25日 16:002024年10月30日 12:002024年10月29日 17:152024年10月17日 14:202024年11月1日 11:15
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す