「原発の闇」の背後に原子力ムラ内閣~「同和」を目くらましに使った関電経営陣の醜態(後)
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■森山氏を加害者、関電を被害者に仕立てた調査報告書
2日の記者会見では、関電が2018年9月11日に作成した「調査委員会」(委員長は小林敬弁護士)の報告書が配布されたが、原発マネー還流に関する肝心要の情報である「吉田開発(高浜町の土木建設会社)」への発注案件リスト」は黒塗りされていた。
しかも森山栄治氏が亡くなる前に作成されたのに、当人へのヒアリングをせずに、国税当局から名前が挙がった関電幹部への調査を元に森山氏を極悪非道の加害者として際立たせる一方、金品を受け取った関電対応者を「森山氏に怯えて返却できなかった」被害者に仕立て上げていた。「森山氏の人物像」の部分では、こう記載されていた。
「原子力立地町の有力者として、当社に対し、地域対応上の助言・協力をしている。一方で、森山氏の機嫌を損ねると、森山氏が、地域での様々な影響力を行使し、発電所運営に支障を及ぼす行動に出るリスクがある」「森山氏は、些細なことで急に怒り出し、長時間にわたって叱責・激昂することが多々あるなど、感情の起伏が大きく対応が非常に難しい人物であるが、対応者は、森山氏をできる限り丁重に扱い、機嫌を損なうことなく、良好な関係を構築・維持する必要がある」
その後の「森山氏への対応状況の概要」では、驚くべきエピソードが列挙されていた。
「社内では過去の伝聞情報として、森山氏からの圧力に耐えかねて、対応者の中には、うつ病になった人、辞表を出した人、すぐに左遷された人などがいる、などの話が伝えられることがあった」
「自身やその家族の身体に危険を及ぼすことを示唆する恫喝として、『お前の家にダンプを突っ込ませる』などといった発言があった。また、社会では過去の伝聞情報として、対応者が『お前にも娘があるだろう。娘がかわいくないのか?』とすごまれた、別の対応者は森山氏のあまりに激しい恫喝の影響もあって身体を悪くし半身不随となった、その対応者は身の危険もあることから経過を書いた遺書を作って貸金庫に預けていた、などの話が伝えられることがあった」
これらの森山氏の伝聞情報が事実ならば、なぜ関電は警察に通報せずに恫喝に屈し続けていたかを解明する必要があるし、事実と異なるのなら故人に対する重大な冒涜で、遺族が名誉毀損で訴えても不思議ではない。そこで岩根社長に次のように聞くと、原発稼働を第一とする回答が返ってきた。
横田 ――社員もうつ病になる中で原発稼働にこだわる理由は何なのか。ブラックな人物を付き合わないと稼働できない原発であれば、再生可能エネルギーとかに転換することが十分に可能だったにもかかわらず、原発にこだわった理由は「今井秘書官をはじめ経産省や官邸の『原発を稼働しろ』という至上命令があったので汚れ役を関電がした」というようにも見えるが。
岩根社長 原子力は将来においても重要なベースロード電源と位置づけられています。我々がしっかりと頑張って、日本の未来の原子力を支えていきたい気持ちを持っていまして、我々が原子力の未来を作っていきたい気持ちはありました。
森山氏を加害者と仕立て上げて被害者面する関電の原発稼働至上主義の方針こそが、今回の金品授受の主原因ではないか。関電側の責任については報告書に未記載だったので、今後、設置される第三者委員会の調査で解明されるのかも聞いた。
横田 ――うつ病になったり、辞表を出したり、左遷をされたり、貸金庫に遺書を書いた方を特定して必ずヒアリングをするのか。要は原発ありきで「とにかく稼働しろ」という上司、職場の雰囲気の下、うつ病になったり、辞職したり、遺書を書いたりすることが起きたと思うので、ここを明らかにすれば、真相に行き着くと思うが、これはやるということでよろしいか。
岩根社長 最終的に第三者委員の先生の方々が決まった段階で調査範囲を決めさせていただきたいと思っています。
横田 ――(森山氏対応による)被害者ですよ。うつ病になったり、辞めたり、左遷されたりされた人がいるにもかかわらず、その人にヒアリングをすることを約束していただけないのか。
岩根社長 そういうことを含めて相談させていただきます。
横田 ――やる必要があるとは思っていないのか。労働問題、人権問題ですよ。労組は「やる必要がある」と言っていないのか。
岩根社長 組合とは話をしていません。
横田 ――報告書を見ると、森山氏の特異な人格を浮き彫りにするためにコメントを紹介するだけで、(関電の)経営責任を問うていない。うつ病になったり、辞職した人の上司は何をやっていたのか。経営方針はどうだったのか。「原発ありきだから黙っていろ」「隠蔽しろ」ということで、こういう事態を招いたとしか考えられないではないか。そこを調査するとなぜ約束しないのか。
岩根社長 今回の起きた事象の背景、これまで聞き取りをしている分も含めて、背景が何であったのかということについて、是非、調査をさせていただきたいということにつきましては、第三者委員会の先生にもお願いをする所存であります。
この報告書を作成した調査委員会の委員長である小林敬弁護士にも同じ質問をぶつけると、岩根社長と同様の答弁だった。
横田 ――うつ病になった人とか、辞表を出した人、左遷された人、遺書を作って貸金庫に預けた人に追加でヒアリングをして、特に経過を遺書に書いた方に話を聞くなり、遺書を読むなりすれば、早期に会社が対応しなかった理由が浮き彫りになるのではないかと思うが、追加のヒアリングをされなかった理由は何か。事情があってヒアリングができなければ、第三者委員会で調査するべきだと考えているのか。
小林弁護士 もともと激しい内容の部分はたしか伝聞の形で伝わって来ている部分だったと思うが、その真偽を今から誰に尋ねて、誰が言っていたのかを調べるのはかなり酷なところではなかったかと思います。それをするべきだったという価値観もありうるのかも知れませんが、「そういうふうに言われる人物だった」という一つのエピソードとして受け取って、その上でその対応の関係はずっとそれが分からずに来て、わかった瞬間、少なくとも「上の人は相談を受けた段階で何かをするべきだったのではないか」というふうに書いたつもりだった。
横田 ――小林先生、知りたいと思わなかったのか。遺書を書いた人の(話を)。
小林弁護士 (無言)
■検察OB弁護士が「死人に口なし」を正当化
結局、岩根社長からも小林弁護士からも納得のいく回答は得られず、関電擁護報告書という印象を拭い去ることはできなかった。郷原信郎氏が10月7日に投稿した「関電経営トップはなぜ居座り続けるのか~『関西検察OB』との〈深い関係〉」を読んで「なるほど」と思ったのはこのためだ。この日の関電会見を聞いていた郷原氏は、次のように指摘していた。
「今回報告書が公表された調査委員会の委員長が、元大阪地検検事正の小林敬弁護士であることが明らかになった。記者会見での岩根社長の説明によると、小林氏は、かねてから関電のコンプライアンス委員会の委員を務めているとのことだ。10月5日放送のTBS『報道特集』で取り上げられた関電の内部事情に精通した人物によるとみられる『内部告発文書』によれば、『コンプライアンス委員会が隠蔽のための作戦会議と化している』とのことであり、その『隠蔽のための作戦会議』に加わっていた委員会のメンバーが小林氏ということになる。
小林氏は、大阪地検検事正として、村木事件の証拠品のFDデータの改ざん問題について、当時の大坪特捜部長らから、『過失によるデータ改変』と報告されたが、何の措置もとらなかったことの責任を問われ、減給の懲戒処分を受けて辞任した人物だ」。
関電のコンプライアンス委員会の委員を務める「お抱え弁護士」のように見える小林弁護士が調査委員長となって作成した報告書が、関電幹部の原発稼働至上主義の経営方針を問題視せず、「死人に口なし」と言わんばかりに故人の森山氏に責任を押し付ける内容になったのは至極当然のことともいえる。それは、関電と経産省が二人三脚を組んで原発マネー(税金と電気料金が原資)をばら撒きながら原発推進に邁進してきた癒着構造にメスが入らないようにする防御策ともいえる。
5日の視察終了後の囲み取材で杉尾秀哉参議院議員は、今後の追及ポイントをこう整理した。
「例の去年9月の報告書、そして先日の記者会見、関西電力側はあくまで被害者であるかのような説明をされていますが、そうではないだろうと。『森山元助役を含めて関西電力が利用してきたのではないか』という実態は国会の場でも詰めていけないといけないし、『ここまで原発政策を推進してきた政府自体の問題の中で原発マネーの還流ではないかと疑われる事案が起きている』という大きな構図も国会の場で質していかなければならないのではないか」。
関電金品問題の真相解明を第三者委員会に委ねようとする動きに対して、どこまで野党側が原発をめぐる癒着構造にまで斬り込めるのか。臨時国会での攻防が注目される。
(了)
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