世界的に“市民権”を得た日本ビジネスインテリジェンス協会!(4)
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日本ビジネスインテリジェンス協会 会長 中川 十郎 氏
中川さん、今ちょうどこの真上に銀座・和光があります
最も印象深かったのが小野田寛郎・元陸軍少尉((財)小野田自然塾 初代理事長)との出会いです。1977年にブラジルのリオデジャネイロ駐在中に御縁ができ、以来37年間に渡り、BIS顧問として、情報研究で親しくご指導をいただきました。小野田元少尉の口癖は「情報が正しいか否か、精査すること」「偽情報に注意せよ」でした。小柄で物静かな紳士でしたが、鋭い眼光が印象的でした。小野田元少尉についてはエピソードがたくさんありますのでいくつかご披露いたします。
・日比谷で一緒に地下道を歩いていた時のことです。突然、「中川さん、今この真上にちょうど銀座・和光があります」と言われました。自分の歩幅と、それまで何歩歩いたかで計算をしておられたわけです。驚いて、近くの階段を上ると目の前に和光がありました。90歳になるまで、階段は必ず2段ずつ上り、体を鍛えておられました。
・小野田元少尉には、何度となく拙宅にお泊りいただいたことがあります。お風呂を提供すると使用後、必ずきれいに風呂掃除をされ、翌朝はベッドもシーツやカバーもきちんと片附けられ、家内ともども恐縮したことを思い出します。
小野田元少尉の著書『たった1人の30年戦争』(東京新聞社刊)は、英訳され“My Thirty Years War(わが30年戦争)”として、今も米国海軍兵学校の教材となっています。しかし、日本の防衛大学校で教材として使われたとは、寡聞にして聞いていません。
国際的には私の情報研究の恩師たるスウェーデン・ルンド大学のステバン・デジエル博士に長年にわたりビジネスインテリジェンスのご指導をいただきました。
デジエル博士は1972年にルンド大学に世界で初めて「ビジネスインテリジェンス講座」を開設。ビジネスインテリジェンスの創始者と言われております。1990年10月にパリで開催された世界情報会議に講師として招聘された私は同じ会議に参加しておられたデジエル博士との運命的な出会いがありました。
この会議で私はかねてから温めてきた2つの中川情報理論を発表しました。1つは「情報逓増理論」、2つ目は「BNP、BPI理論」です。「情報逓増理論」とは「情報は物と異なり与えても減らない。逆に与えれば増える性格がある」というものです。すなわち私がもっている100の情報のなかから10を相手に与えても私の情報量は減りません。逆に相手が御礼に5の新たな情報を私に提供すれば私の情報量は105に逓増するわけです。すなわち、情報は与えることにより逆に増えるという理論です。「BNP」理論とは「Brain National Products」-頭脳国家生産物、「BPI」の「Brain Power Index」も同様で、情報化社会では国家の力、競争力は物をいくら生産したかではなく、脳力を活用し、いかにソフトパワーをハードに組みあわせるかで国家、企業、個人の競争力が決まるという理論です。
講演が終わると初老の紳士が私に駆け寄ってきました。君の「情報逓増理論」と「BNP」「BPI」理論に感銘を受けた。ルンド大学の「情報論」講義で「中川情報理論」として紹介させていただくので、了解してほしいとのこと。欧米に於ける「知的所有権」を大切にする考え方に感銘を受けました。これが世界的なビジネスインテリジェンス研究家のデジエル博士との運命的な出会いでした。以来、デジエル博士には長年にわたり親身になりビジネスインテリジェンスのご指導をいただき、ルンド大学に情報論講師として度々招待される栄誉に預かりました。
1992年2月の「日本競争情報専門家協会(SCIP)」の設立総会&記念シンポジウムには、博士に82歳の高齢をおしてスウェーデンからメインスピーカーとしてご参加いただきました。その際、旧日本軍情報将校の小野田寛郎元陸軍少尉を紹介しました。第二次世界大戦中、デジエル博士は出身国の旧ユーゴスラビアの落下傘部隊に所属されていたこともあって、2人は意気投合しました。そんなある日、デジエル博士から大学に移り、ビジネスインテリジェンスを本挌的に研究したらと強いお勧めがありました。私が商社マンから大学教師に転身を決意したのも、デジエル博士のこのようなお勧めが1つのきっかけになっております。
博士にはなにかと目をかけていただきました。パリや、南仏のフロリアノポリス、スウェーデン・ルンド大学、チリ国立大学、上海と北京の中国科学技術情報研究所、中国競争情報協会、クロアチア、香港、豪州などでの国際情報会議に講師として度々お招きいただき、親しく御指導をいただいたことは私の情報研究人生で終生、忘れ得ぬ想い出です。デジエル博士は2004年に94歳で永眠されましたが、私のかけがえのない情報研究の恩師として、人生におけるデジエル博士との出会いに深く感謝しています。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
中川 十郎 (なかがわ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現・双日)入社。海外駐在20年。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、2006年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師、ハルピン工業大学国際貿易経済関係大学院諮問委員。米国コロンビア大学経営大学院客員研究員。中国対外経済貿易大学大学院客員教授、同大学公共政策研究所名誉所長、WTO-PSI貿易紛争パネル委員。JETRO貿易アドバイザ――。日本ビジネスインテリジェンス協会会長。米国競争情報専門家協会(SCIP)会員。中国競争情報協会国際顧問。日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問。天津市河北区人民政府招商大使、産業発展顧問、世界銀行CSR(企業の社会的責任)コンサルタント。オリンパス(株)特別委員会委員。日本貿易学会理事。国際アジア共同体学会学術顧問(前理事長)。一帯一路陝西友愛研究所副会長などを歴任。2014年に東久邇宮国際文化褒賞を授章。主要著書として、『よくわかる商社業界』共著(日本実業出版社)、『貿易と海外投資の分析と実務』共著(文真堂)、『国際経営戦略』共著(同文館)、『北東アジアのグランドデザイン』共著(日本経済評論社)、『東アジア共同体と日本の戦略』共著(桜美林大学北東アジア総合研究所叢書)、『CIA流戦略情報読本』共訳(ダイヤモンド社)、『グローバル企業の情報組織戦略』共訳(エルコ社)。『成功企業のIT戦略』共訳(日経BP)、『知識情報戦略』編著
(税務経理協会)など多数。主要英文共著書には“Global Perspectives on Competitive Intelligence”(Society of Competitive Intelligence Professionals)Virginia, USA、 " The Intelligent Corporation" The Privatisation of Intelligence (Taylor Graham)、London、“An Introduction to Knowledge Information Strategy~From Business intelligence to Knowledge Sciences~”(World Scientific)、 Singaporeなどがある。
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