殺人マンション裁判の顛末~毀損された強度・資産価値を適正な状態に戻せ!(11)
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全国に潜む設計の偽装
――久留米の欠陥マンションや豊洲市場以外にも 同じような設計偽装や施工の手抜きは多いのでしょうか?
仲盛 かなりの確率で 同様の偽装はあります。SRC造の柱の鉄骨が単材(一方向のみに有効)というケースは、たとえば、福岡地場の大手企業N社が分譲したマンションでも発覚しており、このN社に対して、データ・マックスから質問書を送られていましたね。
――そうです。春日市内のSRC造マンションの設計偽装について N社に質問書を送付しましたが、回答は 誠意の欠片も感じられない紋切り型の回答だったので、NetIBNewsにおいて報じました。
仲盛 これまで お話した設計偽装はSRC造に関するものでしたが、鉄筋コンクリート造(RC造)における設計の偽装も数多く潜んでいます。
それは、RC造の柱梁接合部(仕口)の安全検討が行われていないという設計の偽装です。2007(平成19)年以前に設計された建物のほとんどにおいて、意図的に検討が行われていませんでした。
以前から、RC造構造計算規準(日本建築学会)において、接合部の検討が定められていたものの、建築確認審査において指摘されることがなかったことから、ほとんどの設計者が検討を省いていたのです。姉歯事件と同じ「耐震偽装」そのものであり、「不正行為」です。この偽装が行われている建物の数は天文学的な数字になります。
2007(平成19)年以前に設計されたマンションの構造計算書を調査すれば、非常に高い確率(8割以上)で、接合部の検討が意図的になされていないことを、容易に確認することができます。耐震強度に置換すれば 20~30%前後の強度不足です。この事実は、民間の建物だけではなく、公共の中規模以上の建物にも被害がおよんでいるのです。
2007(平成19)年の建築関係規定改正以降は、確認審査機関が 接合部の検討について指摘をしますので、偽装は少なくなっています。確認審査機関が接合部の検討を指摘するということは、それだけ重要で省略できない項目であるということです。この規定を満足するように設計するためには、梁・柱の部材をかなり大きくする必要があり、また コンクリートの強度も大幅にアップしなければ設計不可能です。要するに、建物の経済コストが上がる最大の要因なのです。だからこそ、この一番重要な項目の検討を 悪意はなかったにせよ意識的に偽装して経済性を優先させていたのです。
この「柱梁接合部(仕口)の検討」は、構造設計者を一番悩ませる領域だったので、行政の無知・無能に付け込んで、偽装していたものと思われます。施工における偽装・手抜き
――マンションの施工における問題点は どういったものがありますか?
仲盛 柱梁接合部の偽装と同様に、構造スリット(柱と壁の間で力を伝達しないための構造的空隙)についても、相当数の物件において、意図的に施工されていません。構造図に記された構造スリットが施工されていない場合、大地震時に、柱などの部材に大きな被害が生じ、最悪の場合、内部の人間が避難できないことも考えられる非常に危険な偽装です。
この偽装は、構造図と構造計算書および実際の建物の調査により確認することができます。2007(平成19)年以前に設計された建物の30%前後において、構造スリットの未施工という不正が行われていると思われます。横浜の傾斜したマンションや、愛知県のマンションでも 構造スリットの未施工が発覚し報道されました。私が 熊本地震で被害を受けたマンションを調査した際にも、相当な数のマンションにおいて、構造スリットが施工されていないことを確認しています。――なぜ、ゼネコンは 図面に明記されている構造スリットを施工しなかったのでしょうか?
仲盛 ゼネコンにとって、構造スリットを設けることはコストがかかる分、この施工を省略した場合には大幅なコストダウンになるのです。しかし、安全を犠牲にして企業の利益の為にコストダウンすることは、到底許される行為ではありません。
施主とゼネコンの間では、建築確認通知書の図面に基づいて、工事契約が交わされています。図面通りに施工されていないことは契約違反であり、建設業法第28条に違反する行為として、行政処分の対象となります。ここでいう施主は、マンションの場合、分譲業者にあたりますが、その立場は区分所有者に受け継がれています。すなわち、分譲業者による区分所有者に対する契約違反ではないでしょうか?私は法律の専門家ではないので、確かなことは専門家の意見を聞いてみるべきだと思います。
――構造スリットが施工されていない場合、どういう被害が想定されますか?
仲盛 構造スリットを設けるようになった理由は、過去の大地震において、柱に取り付いている壁の形状により柱に大きな力が加わり、その柱が押しつぶされた例が多かったからです。構造スリットを設ければ、地震により壁に生じた大きな力を柱に伝えないことで 柱の崩壊(落階)を防ぎ、建物内部の人が避難するための時間を確保することができます。
平成17年に発生した福岡西方沖地震では、築年数が浅い分譲マンションにおいて図面に明記されていた構造スリットが施工されていなかったため、柱・梁が変形し、玄関ドアや窓が開閉できなくなった事例がありました。この被害があったマンションでは、居住者がマンション外に避難していましたが、玄関ドアが開いた状態なので、盗難などを防ぐため 管理人が昼夜問わず マンション内を巡回していたそうです。(つづく)
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