曖昧な株式管理が生んだ名門ゴルフクラブの経営権争い(中)
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ゴルフ場創業者の死後、株式の所有をめぐり、裁判が続いている。舞台は、福岡県糸島市にある「ザ・クイーンズヒルゴルフクラブ(以下、クイーンズ)」だ。地場屈指のマンションデベロッパー・ソロンが手がけたのはよく知られているが、創業者亡き後、株式をめぐり、争いが生じていることはあまり知られていない。裁判記録からわかったのは、中小企業経営者に警鐘を鳴らすものでもあった。
被告側は、株式はすべて田原學オーナーのものであると主張。一方で、平成20年頃から株式が動いたというのが原告の主張で、學氏が病気で自宅療養することになった頃と重なる。原告の主張を裏付ける証拠として提出されたのが、2枚の「株式譲渡契約書」。1枚目は、學氏から息子2人に200株ずつ渡されていた株式を學氏の妻に全株譲渡した契約書であり、日付は平成20年10月。2枚目は、平成26年8月に學氏の妻が保有していた400株を司氏に譲渡するという契約書だった。
原告側はこの2枚の証拠を示したうえで、株式の移転を主張。平成23年の臨時株主総会に当時株主であった學氏の妻が呼ばれていないため、現経営陣の選任決議は不存在であるとした。また同株主総会が成立していないならば、平成28年5月の取締役会決議も無効であるとの論法だった。対して被告は、株主名簿にその記載がないなどと主張したが、そもそも株主名簿を作成した事実が確認されなかった。被告側は原告の提出した2枚の契約書を覆す主張ができないまま、弁論は進んでいた。
今回の争いが生まれた背景を映し出す記載もある。ある陳述書のなかで、妻は「株を預かっているだけ。経営には一度も関わっていない。(株式譲渡に関し)金も払っていない」と述べている。一族経営の中小企業ではありがちなことではないだろうか。株式を単なる紙切れだと考え、重みを知らずに扱ってしまっているように映る。株券を発行し、株式名簿を作成し、株主を確定させていれば、少なくとも今回のような泥沼の戦いは避けられたのではないか。絶対的な権限を持つオーナーが病気で現場を離れることになれば、なおさら権利関係は確定させる必要があったのだ。
田原學オーナーが闘病していた期間が約10年。この間、現経営陣は経営判断を病床の学氏に仰ぐかたちで運営していたようだ。2年に一度の取締役会やそのたびに株主名簿を作成しておけば、対抗要件はそろっていたのかもしれないが、実際、経営の中枢にいたのは闘病中の學氏。絶対的なオーナーが経営判断を下していたため、経営にとって必要な手続きを踏まずにきていたのが実態だったのだろう。
(つづく)
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