2024年12月23日( 月 )

名門ゴルフクラブの株主権確認訴訟~第一審判決の問題点

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 (株)ザ・クイーンズヒルゴルフ場の創業者・田原學氏が亡くなった後、同社の株式をめぐる裁判が行われている(関連記事:曖昧な株式管理が生んだ名門ゴルフクラブの経営権争い(前))。本件に関し、「町の法律好々爺」凡学一生氏が「醜悪すぎる裁判~ある株主権確認訴訟」に続き、第一審判決の問題点について語った。

判例援用の盲点

 第一審は原告全面勝訴の判決であったが、以下の通り、判決には重大な疑義がある。

1:経験の少ない弁護士や裁判官が犯しやすい論理的過誤

 最高裁の判例に限らず、確定した判決には判例法としての法源性がある。これは裁判が一審制と複審制とに関係なく、裁判官の判決に認められた法源性である。これは裁判官が独立した裁判機関であることからくる当然の論理的帰結である。ただ、現実的に最高裁の判決が終審判決であることから、変更可能性が低いというに過ぎない。それでも現実には判例変更は絶えず発生している。論理にはそれ自体に審級性は存在しない。

 しかし、判例法を正確に理解し、その法的射程距離を正確に示すことについては常に論理的過誤が発生している。第一審判決にも援用した最高裁判例のレイシオ・デシデンダイ(判決要旨)とオビタ・ディクタム(判決傍論)の区別が十分でない疑いが強い。判例法として普遍的規範性・法源性が認められるのはレイシオデシデンダイのみである。

2:本件事件で原告の株主権を認める根拠となった判例法

 1人会社の株式を定款で定める取締役会の承認なく譲渡したケースで、その株式譲渡を有効と認めた最高裁判例が最判平成5.3.30 株主総会決議不存在等確認事件 第3小法廷(以下平成5年判決)である。

 事例は1人会社の代表取締役が2名の関係者に株式の半数以上を譲渡したにもかかわらず、当該譲渡につき取締役会の承認がないことを奇貨として、自ら代表取締役として別途株主総会を開催し、2名の取締役の地位を否定する株主総会決議をした。これに対して2名の譲受人が株主総会決議の不存在確認を求めた事案である。

 最高裁は当該株式譲渡を有効と認め、2名の譲受人の請求を容認した。事例は1人会社の代表取締役の背信行為、自らの譲渡行為を自らの利益のために法令の規定を悪用して否定したもので、その主張が否定されて当然の事実関係にあった。しかも、当該論理以外には不正の是正方法が無かった事例である。

3:判例法の法源性

 判例法が法源となることに争いはないが、判決は具体的事案の解決の範囲内で事実上の立法行為が承認される。上記平成5年判決では譲渡人の一人株主自身が、自らの利益のために譲渡制限規定を悪用して背信行為を行った。従って、一人会社の株式譲渡が無条件に取締役会の承認がなくとも有効となるという意味まで判示したものではない。

 とくに本件では、一人株主はその譲渡行為について背信的行為を行ったものではないから、本則に戻って、法令遵守を優先することが法的安定性を維持する裁判所の責務に合致する。このような場合には常套句として「平成5年判決の場合とは事案を異にする」として判例法の援用が排斥される。控訴審が原審の認定を追認したら、それは明らかに事案の異なる1人株主の未承認譲渡に一般的有効性を認める新判例となるため、必ず、上告してその当否が争われることになる。

4:第一審の論理矛盾

 仮に取締役会の承認がなくとも一人株主の譲渡行為は「無条件に」有効になるとしても、本件事件では重大な論理矛盾が存在する。

 本件被告会社は設立当初、2つの法人、2名の個人、合計4名の株主で構成されていた。この株主らが全員、一つの会社(ソロン)に株式を譲渡し、さらにこの会社から2名の個人(被相続人の息子2名)に譲渡され、さらにこの2名から1名(被相続人の妻)に譲渡集約され、この1名から原告に譲渡された履歴となっている。

 以上の履歴のうち、一人株主であるのはソロンが株主となった場合と妻が株主となった場合のみである。その前工程である譲渡ではそれぞれ4名の株主、2名の株主であり、1人株主会社ではない。無論、本件被告会社には適正真実の株主名簿は当初から存在せず、すべての株式譲渡が取締役会の承認がない譲渡である。

 とくに、最初の譲渡である4名の株主からソロンへの株式譲渡について取締役会の承認を証明する議事録、株主名簿なども存在しないのであるから、それ以降の株式譲渡の有効性を議論する意味はない。2名の株主(被相続人の兄と弟)から妻への譲渡については確実に取締役会の承認がないことは明白である。この論理矛盾を控訴審がどのように判断するかが注目される。

 結局、原告の株主権を認容するためには、4人株主、2人株主の会社であっても取締役会の承認は不要との新判例となるから、控訴棄却判決であれば、上告は必至となる。

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