たった10円の時給アップが大赤字を生む
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深刻な人手不足のなか、どの業界も人が集まらず、悲鳴をあげている。きつい仕事は敬遠され、「いかに楽をして稼ぐか」を仕事選びの条件にしている求職者が多いのも事実だ。
今月、企業や大学などの食堂経営を受託していた「太平洋興業(株)」(東京都)が倒産した。食堂そのものの閉鎖にともなう減収もあったというが、「なによりも響いたのは人件費の高騰だろう」と業界関係者はいう。
「そもそも食堂などの受託事業は赤字になりにくいビジネスのはずだった。食堂に人を派遣するようなもの。コストの大半を占める人件費さえ、読み間違わなければ薄利でも利益は出ていた」と話す一方で、「ここ数年、状況は激変している」と嘆く。
手堅かったはずの事業が、大きく揺れている。その要因の1つが、最低賃金の上昇にあるという。
人手不足のなか、企業は人を集めるために好条件を出すしかない。パート・アルバイトでいえば、時給である。多くの企業が求人募集をかけており、求職者は10円でも高時給の仕事先を選ぶ。当然、時給を上げないと人は集まらないのだが、パートを1,000人単位で雇用する企業では、たった10円でも時給を上げると、年間で数千万円の人件費アップにつながってしまう。
パートが集まらなければ、仕方なく融通の利く人材派遣会社に頼むことになる。そうなれば、時給の1.5倍ほどの支払いが待っており、悪循環に陥ってしまう。
さらに、社員食堂や学生食堂などは、一般的に低価格なのがウリだ。ワンコインで食べられる手軽さが利用者のニーズである。社員食堂で一食1,000円のランチを提供するわけにはいかず、上昇する人件費を価格に反映させるのは難しい面もある。
「この状況下では、新規受託はリスクが高すぎる。取れば取るほど赤字になる」という業界関係者もいる。さらに地方での受託になれば、人手確保は厳しくなり、より一層リスクが高まるようだ。被雇用者にとっては、たった10円かもしれないが、雇用者にとっては莫大なコスト増になる。ロボット導入やセントラルキッチンでの前処理などで、省力化はいくらか対抗策になるだろうが、抜本的な対策は見当たらない。毎年、最低賃金改定のニュースが報じられる時期になると、経営陣のため息も増えている。
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