特捜部が17年ぶりに「永田町」に切り込んだ秋元司事件の行方
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まもなく「令和」になって初めての正月を迎えるが、東京地検特捜部は、今、正月返上の覚悟で秋元司事件の捜査を続けている。なにしろ国会議員の職務に関する権限行使で贈収賄事件を摘発したのは、鈴木宗男代議士逮捕以来なので17年ぶり。法務・検察はもちろん、それを報じる司法マスコミなどにも「特捜復活」の期待がある。
事件はシンプルだ。オンラインゲームの中国企業「500ドットコム」が、カジノ解禁法が成立した日本で、カジノを含む統合型リゾート(IR)に参画しようと、投資ブローカーの紺野昌彦容疑者、元沖縄県浦添市議の仲里勝憲容疑者らを顧問に雇い、内閣府や国土交通省の副大臣となって職務権限のあった秋元容疑者に賄賂を贈ったというもの。
贈収賄は、シンプルであるがゆえに立証が難しい。すべて密室で行なわれ、概ね現金で渡される裏ガネなので証拠がない。今回の逮捕容疑の300万円も、紺野、仲里の両容疑者が、17年9月28日の衆院解散日、衆院議員会館の秋元容疑者の事務所で、現金300万円を入れた羊羹の紙袋を、秋元容疑者に直接、手渡した。
贈賄側は認めているが、収賄側の秋元容疑者はこの300万円も含め、すべて否定している。筆者自身、逮捕前日、秋元容疑者と電話で会話、「不正なカネは一切、ない。会館を家宅捜索した以上、特捜は逮捕するかも知れないが、信じて欲しい」と、訴えられていた。
事件直前だから否定したわけではない。筆者は秋元容疑者に、「闇パーティー」と報じられた政治資金問題でも取材したことがあるが、「裏で受け取ることはない。すべて適正に処理している」と、そこは自信を持っていた。
その自信の根拠は、金庫番である元政策秘書に処理を委ねていたからだろう。今回、問題になっているのは、この300万円の陣中見舞いのほか、500ドットコムが17年8月、沖縄で開いたシンポジウムの講演料200万円、500ドットコムの本社がある深圳やマカオへの旅費、IR候補地の北海道留寿都村への家族旅行70万円などである。
こうした資金の収受には元政策秘書が関与して処理。講演料200万円は、元政策秘書が設立、秋元容疑者も落選中に顧問を務めていたATエンタープライズというコンサルタント会社に振り込ませ、各種旅費は、例えば深圳旅行は政治活動にあたるとして政治資金団体から紺野容疑者の会社に振り込み、処理していた。
300万円の裏ガネは微妙だが、「元政策秘書に渡して、政治献金としての適正な処理を命じた」という“言い逃れ”は出来るだろうし、密室での領収書のない受け渡しなので、「受け取った覚えはない」と、突っぱねることもできよう。
いずれにせよ、地盤、看板、カバンがなく、大東文化大卒ということで学閥・閨閥にも縁のない秋元容疑者が、秘書からたたき上げで代議士となり、参院で1回当選、次に落選、衆院に移って3回当選ながら、うち2回は比例復活して代議士を継続するまでには、資金面で相当な苦労をしてきたことは想像に難くない。
保守本流の財界は大物政治家に握られ、金融、ゼネコン、不動産、電力・ガスといった利権の発生しやすい分野に食い込むには力が足りない。勢い、秋元容疑者がつきあうのは、パチンコ・パチスロなど遊技関係やクラブなどの料飲、再生エネルギーなど新興インフラ、仮想通貨やゲームなどのベンチャー企業といったニッチな業界、野心的な経営者、ワケありの企業オーナーが多くなる。
清濁併せ呑むのが秋元容疑者のスタイルで、だから怪しい陳情は多いが、金庫番である元政策秘書に任せ、「政治資金は報告書に記載して処理、仕切れないものはATエンタープライズなど企業活動として計上する」という使い分けで乗り切ってきた。
特捜部が、秋元容疑者に目を付けたきっかけは、本サイト「データ・マックス」が「企業主導型保育事業の闇」と題し、連続して報じた川崎大資被告の助成金詐欺事件であり、川崎被告が、「政界パイプ」として利用してきたのが秋元容疑者だったからだ。
川崎被告は、脱税、競売妨害事件などを起こして服役するが、秋元容疑者とは事件化前の姓名を変える塩田大介時代から親交があった。川崎被告が不動産業から保育事業にステージを移し、助成金取得のコンサルタントを手掛ける際、職務権限のある内閣府副大臣だった「秋元の名前」を散々、使った。
特捜部は、19年7月、川崎被告を逮捕。秋元容疑者に関しては、助成金の交付を受けた企業が秋元容疑者のパーティー券を購入している問題を追及したものの、「政治資金収支報告書に記載。表で処理しているから立件には至らなかった」(社会部記者)という。ただ、その捜査過程でATエンタープライズという“隠れ蓑”を発見。その資金の流れを追及するなかで、今回のIR事件に直結する500ドットコム顧問らの外為法違反事件に行き着いた。事件着手が、12月7日のATエンタープライズと元政策秘書宅などの家宅捜索から始まっているのはそのためだ。
特捜部には事件着手の条件が整っていた。安倍政権の重要な成長戦略であるIRに、実績のない中国企業が怪しいブローカー人脈を駆使して参入を図っていること、森本宏特捜部長という「検察のエース」の手で政界ルートに着手、「特捜の復活」を図りたいという機運が高まっていたこと、これまでなら自民党政治家への捜査着手には「待った」をかけてきた官邸が、桜を見る会問題の直撃で批判にさらされ、「安倍一強」に揺らぎが生じていたこと、などである。
IRから始まった事件は、年明けとともに秋元司という政治家総体の罪を暴いていく事件となる。秋元容疑者が「否認」しているから検察は、第2、第3の矢を放って、秋元容疑者の罪を重ね、政治資金を暴き、「汚れた政治家」であることを浮き彫りにしていく。
秋元容疑者を逮捕した翌日の12月26日、大手パチンコチェーンに家宅捜索したのはその一環。秋元容疑者が、ニッチで警察官僚OBの政治家以外には頼る先のないパチンコ・パチスロやその関連業界と深い関係を築いているのは前述の通り。この大手パチンコチェーンは業界3位の大手ながら業績不振で粉飾決算を月刊誌で指摘されるなど、近年、ダッチロール経営が続いていた。
その各種相談に乗っていたのが秋元容疑者で、ATエンタープライズはこの企業とコンサルタント契約を結び、月に数十万円のコンサル料を受け取っていた。秋元容疑者は、「会社経営には、まったくタッチしていない」と主張。だが、特捜部は政治資金の迂回ルートと断定。家宅捜索の容疑は贈賄である。
ATエンタープライズは、他にも太陽光など再生エネルギー、設備工事関連、公共工事を主とする建設会社などとコンサル契約を結んでいる。それが大手パチンコチェーンのように秋元容疑者と関連付けられれば、同じように捜索先として浮上する。
中国企業が絡むIR汚職として幕を開けた秋元事件は、年明けからその震度を深めるとともに、企業主導型保育事業で浮上した中堅政治家の怪しい錬金術を、根こそぎ洗う捜査となる。
秋元容疑者は「保釈されず、1年以上、拘置所に入れられても、否認を貫き、頑張る」という言葉を逮捕前、知人に残した。その覚悟を元政策秘書は共有できるのか。IRでは贈賄側が、比較的容易に落ちているだけに、今後、大きく事件展開するかどうかは、収賄側となる元政策秘書の証言にかかっている。
【伊藤 博敏】
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