2024年11月22日( 金 )

ソフトパワー戦争に突入したアメリカとイラン 日本は仲介役をはたせるのか?(1)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

トランプ大統領の「不都合な真実」

 2020年は波乱含みのスタートとなった。トランプ大統領がイランの国民的英雄ソレイマニ司令官(62歳)をイラクの首都バグダッドの空港でドローン攻撃によって暗殺したためだ。イランには通常の軍隊とは別に「革命防衛隊」と呼ばれるエリート部隊が存在する。その部隊のなかでもとくに優秀な兵士を擁し、空軍や海軍も傘下に収める「コッズ部隊」の司令官がソレイマニ准将であった。一時期はアメリカの要請を受け、中東各地でテロ対策にも貢献した筋金入りの軍人である。

 そんなイラン政府の中枢的存在を宣戦布告もなく暗殺したことで、イラン国民の反米意識はいやが上にも高まった。最高指導者であるハメネイ師も「復讐」を誓った。早晩、イランによる反撃が展開されるだろう。とはいえ、正面切っての軍事対決はアメリカもイランも望まない。国際社会も双方に自制を促している。しかし、イランがこのままおとなしく引き下がる保証はない。

 当面、想定されるのはアメリカの金融機関や政府機関を狙ったサイバー攻撃やアメリカ人を標的にするテロであろう。殺害されたソレイマニ司令官の娘もイランのメディアに登場し、「父親の殉死を嘆き、国民は復讐に立ち上がるよう」訴えた。イランのインスタグラムでは「トランプ大統領やその家族を“血祭の対象”にせよ」と呼びかけるメッセージで溢れ返っている。

 それにしても、トランプ大統領は議会の承認も得ないまま、国防総省の責任者も「まさか」と耳を疑ったといわれるような、外国訪問中のイランの軍事司令官を殺害するという命令をなぜ下したのだろうか?

 日本ではあまり知られていないが、トランプ大統領のイラン敵視の発想は筋金入りである。何と、12年の時点で、「イランをぶっ壊し、石器時代に逆戻りさせる」と過激な発言を繰り返していた。15年には「イランをぶっ飛ばし、核開発能力を木っ端みじんにする」とエスカレート。いずれも大統領に就任する以前の発言である。

 そして、20年1月5日には「イランの52カ所の歴史的文化遺産を吹き飛ばす」とまで異常なほどの反イランの感情を露わにした。とはいえ、この発言にはユネスコも猛反発。アメリカ国内でもトランプ大統領を諫める声が高まり、日本では報道されていないが、アメリカ各地で反トランプのデモが展開されることになった。

 問題は1955年にアメリカとイランは友好条約を締結しており、いまだに破棄されていないこと。そのため、2018年10月3日、ハーグの国際司法裁判所は「アメリカによる対イラン経済制裁は条約違反にあたる」と全会一致で裁定を下したほどだ。しかし、トランプ政権はこのような国際法上の問題の指摘を一切無視している。この点も日本ではまったく触れられていない。

 なぜ、トランプ大統領は異常なまでにイランを敵視するのだろうか?

 実は、ビジネスマン時代、トランプ氏はイラン革命防衛隊傘下の建設企業と提携し、アゼルバイジャンのバクーに超高級のトランプタワーを建設しようとしていた。当時からイラン革命防衛隊はアメリカ政府からテロ組織と認定されており、そうした組織とのビジネスは違法行為に他ならない。娘のイバンカが責任者となり、世界中から高価な建築資材や内装品を集め、ホテルはほぼ完成していたが、オープン直前にワイロ問題が発覚し、アゼルバイジャン政府高官やイラン関係者が相次いで逮捕されたため、トランプタワー建設計画は破綻することに。15年のことであった。

 トランプ氏曰く「イラン人のやり方がまずく、大きな損失を被った。この落とし前は必ずつけてもらう」と捨て台詞を残し、バクーから撤退。この一件を通じてイラン革命防衛隊への恨みが骨髄に染みたようだ。しかし、アメリカの法律に違反して、イランとの裏取引を進めていたことは事実であり、こうした「不都合な真実」を暴かれると11月の大統領再選にも危険信号が灯るだろう。ソレイマニ司令官の命を奪ったのも、同司令官がトランプ大統領の過去の悪行を知っていたために消そうとしたに違いない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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