2024年12月04日( 水 )

太陽光・風力・水力発電 ここが変われば自然エネルギー社会になる!(1)

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環境エネルギー政策研究所 所長 飯田 哲也 氏

 純国産エネルギーで燃料代ゼロ、環境負担が少ない上に地域活性化にも役立ち、最大の課題だったコストも急落しているが、日本では自然エネルギーがなかなか普及しない。いったい何が課題なのだろうか。自然エネルギーの世界動向や地産地消の取り組み、今後の展望について、自然エネルギー政策専門家の認定NPO法人環境エネルギー政策研究所・所長・飯田哲也氏に聞いた。

自然エネルギーが広がらない理由

 ――日本では、なぜ自然エネルギーが広がらないのでしょうか。

 飯田哲也氏(以下、飯田) 以前は、自然エネルギーの発電コストが高かったのですが、コストが大きく下がり、太陽光発電や風力発電は世界的に普及しています。日本では、2012年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下、FIT)が施行されました。風力発電はまだそれほど普及していませんが、短期間で設置可能で採算が取りやすい太陽光発電が爆発的に普及しました。

 しかし、太陽光発電が爆発的に普及したことでぶつかっている壁があります。電力の需要と供給のバランスの問題です。FITの開始後、最初の3年間で約7,000万kWもの太陽光発電の系統接続の申込みが電力会社に殺到しました(家庭用太陽光を除く)。系統接続とは、電力を使う場所に運ぶため、電力会社がもっている送電線につなぐことです。最初の3年間で認定された太陽光発電のうち、約1,700万kWが失効しており、約2,350万kWが未稼働、発電が開始しているのは約3,000万kWです(2019年3月現在)。

 FITが始まった時には、ここまで申請が集中するとは考えていなかった電力会社と国は慌てふためきました。とくに申込みが集中した九州電力は、2014年9月にいったん受付を中断しました。いわゆる「九電ショック」です。その情報は全国の電力会社であらかじめ共有されており、「右へならえ」とばかりに、全国の電力会社は系統接続の受付を保留にしました。新しい発電所の申請枠が激減し、今に至ります。

 2018年10月には、電力使用量が少ない時期には発電量が電力需要を上回るため、太陽光や風力発電の出力を抑制する必要があるとの理由から、九州電力は、太陽光発電や風力発電を止める「出力抑制」を始めました。これが「第二次九電ショック」です。

 日本全国に太陽光発電がこのまま普及すると、電力会社はほかの事業者が発電した電気を預かって消費者に届けるだけのビジネスになります。全国の電力需要はそれほど変わりませんから、太陽光の発電が増えると、電力会社は自社の石炭火力発電などの発電量を絞ることが必要になります。そうすると、発電所の原価償却ができず、事業の収益性が厳しくなります。そのため、太陽光発電量を抑制しているのではないかという疑いの声すらあります。

コストが低下し世界で自然エネルギーが普及

 ――世界の自然エネルギーの動向は。

 飯田 ドイツでは、すでに2022年までの全廃を決めた原発に続いて、2020年以降は石炭火力発電を段階的に減らし、2038年までに全廃する計画を立てました。中国も火力発電所を減らす方向です。しかし、日本は、これから新しい石炭火力発電所約2,000万kWをつくる計画を立てており、先進国の流れに逆行しています。

 世界中のほとんどの国や地域では、太陽光発電や風力発電が普及するにつれて発電コストも格段に下がりました。すでに一番安いエネルギーになりつつあります。たとえば日本の電気料金は約25万円/kWで、原価は約10万円/kWですが、太陽光発電や風力発電の市場拡大にともなう技術学習効果によって、ドイツなど先進国では太陽光発電はすでに5~8万円/kWに下がっています。太陽光発電そのもののコストが下がっているので、コストは2~3万円/kWになる見込みです。

 太陽光や風力などの自然エネルギーの発電コストがあまりに下がったので、世界的には自然エネルギー発電を中心とするエネルギー市場へと、大きく考え方が転換しました。電力は太陽光発電や風力発電を中心にして、需要や発電量の変動を電力市場や水力発電、最近では蓄電池などで調整する方向に進んでいます。

 しかし日本では、世界が10年前に打ち捨てた、石炭火力発電と原発を主軸にするという古いエネルギーコンセプトにとどまったままです。いまだに太陽光発電や風力発電は取るに足らないと考えられています。おそらく、高度経済成長期や石油ショックを乗り切った過去の成功体験に囚われたままで、かつてとはまったく異なる世界を想像できないのでしょう。

(つづく)
【石井 ゆかり】

<プロフィール>
飯田  哲也(いいだ・てつなり)

 1959年山口県生まれ。京都大学工学部原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。日本のFITの起草者で、自然エネルギー政策では、国内外の第一人者かつ日本を代表する社会イノベータ。国内外に豊富なネットワークをもち、REN21運営委員、自然エネルギー100%プラットフォーム理事などを務め、2016年には世界風力エネルギー名誉賞を受賞。日本でも国・自治体の委員を歴任。著書として、『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論社)、『エネルギー政策のイノベーション』(学芸出版社)、『1億3,000万人の自然エネルギー』(講談社)、『エネルギー進化論』(ちくま新書)など多数。

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