2024年12月28日( 土 )

「建物は人がつくるもの」人を育て、技術を磨き続ける(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

照栄建設(株) 代表取締役社長 冨永 一幹 氏

 照栄建設(株)は自前での設計・施工技術を磨くことにこだわり、地場でトップクラスのゼネコンとして高い競争力を維持している。建築のみならずまちづくりにも高い意識をもち、福岡のまちの発展にも大いに貢献してきた。この数年、建築業界に吹いた追い風のなかで財務を立て直し、10年、20年先を見据えて、同社の理念に基づいた教育を行っている。同社代表の冨永氏に今後の展望について話をうかがった。

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 児玉 直)

人材育成について

 ――今年は何名新入社員を採用されますか。

 冨永 20年は4名の新入社員を迎え入れます。女性を含め全員が技術職でして、最初は全員現場に出てもらいます。

 年々採用が激化していて、今の採用はちょっと異常ですね。大手が少し採用を緩めているのかと思うのですが、それでも青田刈りがすごいです。そして、学生たちの動きもどんどん早くなる傾向があります。短大生なら1年生からということですよね。入学して間もなくということですので、不思議に思います。

 技術職はさらに異常です。その人の人格を見て採用しているわけではないのですよ。これであれば、彼らが辞めるのは当然だと思います。また、教育に関して、私は3代目になりますが、次の後継者を育てないといけません。

 問題は今後、社会と建設業界がどうなるかということであり、それを考えていかなければなりません。これまでは良い時期という流れに乗せてもらっていただけで、この状態が続くわけではありません。自己資本比率を高めて、今から何処に資本を投下していくかということを考えなければなりません。

創立45周年感謝の集い
創立45周年感謝の集い

まちづくりについて

 ――御社はこの15年くらい、まちづくりにおいて大きな役割をはたしてこられたと思います。ちなみにどのくらいの建築物を供給されましたか。

 冨永 そうですね。当社で多くの建物を建設させていただきました。

 ――ただ、福岡市役所はまちづくりに関するビジョンに乏しく、マンションを建てるだけであったようにも思えて残念です。それに比べて西の方は、九州大学の移転があり、予算が取りやすかったのだとしてもよいですね。

 冨永 西区、糸島地区の建設はまちづくりを含め成功例ですね。

 ――九州大学への鉄道路線、たとえばモノレールなどの敷設の可能性はありますか。

 冨永 九州大学への鉄道路線が建設される可能性は低いでしょうね。ただ、鉄道は人と情報を運ぶものであり必要だと思います。東京があれだけ発展したのも、鉄道によるところが大きいと思います。

 ――バスしかないということですね。九州大学の学生は現在も室見川より東のエリアの賃貸住宅に住んでいると聞いていますが、大学の地元に住んでいる人は増えてきているのでしょうか。

 冨永 現在、九州大学のある地域での住宅の提供は足りていないですね。当時、私たちが建設を手がけていたころはもう足りていると言われたものですが…。九大学研都市駅エリアおよび九州大学の地元の元岡にいくつかマンションを建てました。学生も社会人もどちらも住んでいます。九州大学には約2万人の人がいて、地価もどんどん上がっていますね。

中村哲氏について

 ――中村哲さんのようにいろいろと動いて回る人が出現してくれればと期待しています。

 冨永 中村哲さんの考え方は非常に日本人らしい考え方であると思います。荒れた土地を開墾する文化は外国にはそうそう見られません。日本人の文化は荒れた土地を開墾するという自然と闘ってきたものであり、これは日本人の知恵であると思います。日本の知恵は世界で称賛されています。技術は世界で確固たるものを築いています。自動車、飛行機、宇宙技術と一通りそろっています。また、たとえば海水を真水にする技術ももっています。しかし、実は当の日本人がそのことをあまり知らないのです。

 ――それらの技術の売り先も知っていませんね。

 冨永 社員にこのことを話すと、自分は技術屋であるからと反応します。1ミリにこだわるという世界ですね。建物は人が建てるものですので、技術を磨くことには大変意味があります。

 建築の本質はこれから10年経っても20年経っても変わらないものです。それは、建物は人間が建てるしかないということです。この点は磨きようがあると思います。教育と建築はどちらも人間が行う産業であり、今後も成長すると思います。コンサルタントには教育業界出身の人が多いですね。それだけ世の中に悩んでいる人が多いということだと思います。

 社員もちょっと視点を変えれば成長する機会を見つけられるはずです。中村哲さん、アフガニスタンに話を戻しますと、水があるわけですから、それを横に引けばいいだけなのです。中村哲さんの手法は江戸時代の工法であると聞いています。アフガニスタンで中村さんが水を引いてその恩恵を受けた人は65万人ですが、同国の人口の2~3%に相当します。2~3%と聞くと少ないと感じるかもしれませんが、65万人もの人に影響をおよぼしたわけです。

 自分も中村さんのような人間になりたいという気持ちをもった人々が現れることを願います。

(了)
【文・構成:茅野 雅弘】

<プロフィール>
冨永 一幹(とみなが・かずもと)

 1969年6月14日生まれ。福岡県春日市出身。福岡大学大学院人文科学研究科教育臨床心理学専攻修士課程修了。2005年4月に照栄建設(株)入社。取締役社長室長、総務部長を経て17年8月1日に代表取締役社長に就任。

<COMPANY INFORMATION>
代 表:冨永 一幹
所在地:福岡市南区向新町2-5-16
設 立:1972年6月
資本金:7,000万円
売上高:(19/5)142億7,847万円

(中)

関連記事