2024年12月19日( 木 )

アベノミクスがもたらす「資本栄えて民滅ぶ」国の未来(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

経済学者・評論家 植草 一秀 氏

第2次安倍内閣が発足して丸7年の時間が経過した。企業利益は倍増し、株価は3倍水準に上昇し、メディアがアベノミクス成功とはやし立てるが民の竈の火は燃え尽きる寸前だ。2019年の出生者数は初めて90万人を下回った。民を温める政策に転じなければ日本崩壊は近未来の現実になる。若者が未来に夢と希望をもてない国に、夢と希望の未来は到来しない。

悪魔の税制

 2012年12月の第2次安倍内閣発足後に消費税の税率が2度引き上げられた。税率は5%から8%、さらに10%へと引き上げられた。消費税は悪魔の税制である。その理由は消費税がもつ3つの基本性格によっている。第一は消費税が景気回復のカギを握る家計消費を抑圧すること。企業の内部留保に課税せよとの声が挙がるとき、直ちに噴出する批判は二重課税だ。内部留保は税引き後企業利益の処分の一形態で、これに課税することが二重課税となるからだ。

 しかし、消費税も二重課税なのだ。なぜなら、個人が消費を行う原資である可処分所得は所得税課税後のものだからだ。課税後所得で消費をすると、消費金額に税率を乗じた金額が税金として召し上げられる。消費税は消費に対する懲罰の意味を有しており、本来は「消費懲罰税」と命名すべきものだ。GDPを構成する需要項目の約6割が家計消費で、消費税増税はこれを抑圧する効果を発揮する。総需要の圧縮は避けられない。

 第二は消費税の逆進性だ。戦後税制の基本原則は応能負担である。能力に応じた負担を求めることを基本としてきた。所得が増えるにつれて、税負担率が上昇する。累進税率構造が採用され、高所得者ほど高い税率で税の負担を求めることを基本に置いてきた。

 所得税の場合、夫婦と子ども2人の片働きの標準世帯では、子どもの年齢などにもよるが世帯主の年収が354万円までは税負担がゼロである。生存に必要な収入に対しては課税しない。日本国憲法が生存権を保障していることに対応した課税方式が採用されてきた。

 ところが、消費税の場合はまったく異なる。年収200万円の労働者は年収のすべてを消費に充当することが多いだろう。このとき、この労働者は収入金額の10%を税金で召し上げられてしまう。年間で1カ月分の給料以上のお金が税金として巻き上げられる。他方、年収10億円の富裕者が年間に1億円支出する場合、富裕者の税負担率は収入のたったの1%ということになる。

 現代日本の最大の経済問題は極限を超えた格差拡大だ。より正確にいえば、生存の危機をもたらす所得環境が、多数の国民に強制されている。消費税増税の推進によって生存権が脅かされる状況が生まれている。

 第三は消費税が中小零細企業を破滅の淵に追い込んでいることだ。消費税増税を価格に転嫁できない零細事業者は消費税増税分を自己負担することになる。消費者が負担するとされる消費税負担を消費者に代わって販売事業者が負担させられる。そのために、消費税滞納が大量発生し、零細事業者の廃業、破綻が広がっている。この意味で消費税は悪魔の税制というほかない。

 欧州諸国の付加価値税率が高いことが指摘されるが、これらの国々では、すべての国民に保障する最低所得水準が日本よりもはるかに高い。また、付加価値税制度のなかに生活必需品非課税や低率税率が埋め込まれている。所得の少ない階層の生存権は脅かされていない。日本で消費税率が10%に引き上げられた際に、生活必需品等に対して軽減税率が採用されたとされているが事実ではない。生活必需品などの税率は「据え置かれた」だけで「軽減された」わけでない。「軽減税率」でなく「据え置き税率」に過ぎない。

 (つづく)

<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)

 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、スタンフォード大学フェロー、早稲田大学教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、オールジャパン平和と共生運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続している。経済金融情勢分析を継続するとともに、共生社会実現のための『ガーベラ革命』市民連帯運動、評論活動を展開。政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

関連記事