2024年12月23日( 月 )

新型コロナウイルスの蔓延と米中貿易「第一段階」合意の行方(2)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、米中両国は1月15日、包括的な貿易協定の第一段階と双方が位置付ける合意に署名した。合意文書には、中国の企業および政府機関による米国の技術と企業機密の窃取に対し中国側が取り締まりを強化するとの公約や、対米貿易黒字の縮小に向けた中国による追加購入計画の概要などが盛り込まれている。真の対立点である技術覇権争いは先送りとなったかたちだ。

中国は敵か味方か!?

 これまで、アメリカはことあるごとに、中国の不公正な貿易慣習や国営企業の優遇政策を問題視してきた。何もトランプ大統領になってから始まったわけではない。

 過去20年にわたり、アメリカの歴代政権は中国による「知的財産権保護の不十分さ」「国営企業優遇による競争排除」「補助金供与による低コスト生産とダンピング輸出」を繰り返し批判してきた。とはいえ、「もうこれ以上、中国に好き勝手させない」と大幅な関税をかけ、中国の姿勢を改めさせようと本気で宣戦布告におよんだのはトランプ大統領が初めてであった。

 確かに、中国は2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟し、世界との自由貿易の恩恵を十二分に享受するようになった。しかし、不都合な状況に直面すると、「中国はいまだ発展途上国である」との言い訳で国際的なルールから逸脱するような対応も平気で繰り返してきた。

 そのため、トランプ大統領は昨年夏、フランスで開かれたG7では「習近平は敵だ」「我々は中国を必要としない。中国などいない方がすべてうまくいく」と発言。「中国はアメリカにつぐ世界第二の経済大国のはず。決して発展途上国ではない」と付け加えた。

 ペンス副大統領に至っては、この2年間、アメリカのシンクタンクでの演説で「ソ連崩壊後、中国は民主化に進むものと思っていた。21世紀に入り、アメリカは中国を開かれた貿易体制に迎え入れようとWTOへの加盟も承認した。しかし、我々の期待と希望は裏切られた」と、歯に衣着せぬ言葉で中国敵視を露わにしたものだ。

 こうした対中批判や中国に改革を迫る強硬な姿勢には無視できない点もあるが、多様性を認めず、アメリカスのタイルにそぐわない体制を「悪の枢軸」の如く、全面的に否定する見方は問題である。現実の世界は相互依存を深めている。急成長を遂げる巨大な市場を抱える中国だけに、欧米諸国も日本も何とか食い込もうと必死に取り組んできたわけだ。

 しかも、アメリカ企業は日本以上に中国市場で大きな利益を確保してきたのも事実。日本企業も同じであるが、成功している企業は「深く静かに」中国に根を下ろしており、うまくいっていない企業は声高に中国の閉鎖性や不公正さを訴えるという傾向が見られるのである。現代ほどサプライチェーンの進展や人材の交流で各国が一体化している時代はなかった。世界で活躍する経営者はそのことを実感しているはずだ。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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