【熊本】動き始めた熊本空港アクセス鉄道~熊本地震が“追い風”
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熊本県で長年懸案になっていた熊本市街地と熊本空港を短時間で結ぶアクセス交通の整備計画が動き始めた。2016年4月の熊本地震への復興支援が“追い風”になり、定時輸送できる「熊本空港アクセス鉄道」の建設が緒に就こうとしている。
■歴代知事に引き継がれた“宿題”~熊本空港をもっと身近に
熊本空港は1960年、熊本市東部にあった戦前の旧陸軍熊本飛行場跡に開港。市街化による騒音対策やジェット機対応で、71年に熊本市と隣接する益城町と菊陽町にまたがる高遊原(たかゆうばる)台地に移転した。
熊本市街地とのアクセス交通は移転当初からの懸案で歴代知事が頭を痛めてきた。市街地と空港を直行する公共交通はリムジンバスのみ。空港から市街地西端のJR熊本駅まで「公称60分」。朝夕のラッシュ時は90分前後かかる。
代替輸送手段は何度も検討された。市街地と空港間のモノレール建設、熊本市電(路面電車)の延伸、阿蘇・大分方面に走るJR豊肥線を分岐する空港新線の建設など、浮かんでは消えた。モノレールは建設費が巨額。路面電車の延伸は、建設費は抑えられるものの、熊本市外の軌道敷設が10km以上になり、速度や大量輸送が望めない。
豊肥線を空港に近い在来駅から分岐、空港まで延ばす鉄道新線は、定時、速度、大量輸送の3条件を満たす。ところが熊本空港の旅客数が少なく、投資に見合う旅客需要が見込めなかった。
国交省の空港管理状況調書では、熊本空港の国内・国際線の旅客数は2009年度-12年度は280万人台で横ばい。13年度に初の300万人台を記録し、14年度は前年比5万人増、15年度は同10万人増と伸ばしていた。
■被災を機にコンセッション方式へ
そこに熊本地震が起こった。16年4月14日と16日。どちらも震度7で益城町が震源地だった。空港の旅客ターミナルビルは被災、滑走路は閉鎖された。当然、災害復興が熊本県政の柱になり、蒲島郁夫知事は「創造的復興」を唱えて、熊本城と熊本空港を復興のシンボルに掲げた。
当時、国交省は空港の運営と管理を民間委託するコンセッション方式を導入。九州では福岡空港が候補に浮かんでいたが、「熊本空港へのコンセッション方式の導入が復興の“起爆剤”になる」として、蒲島知事は石井啓一国交相(当時)に“直訴”した。発災から8カ月後だった。
翌17年1月、通常国会の施政方針演説で安倍首相は「熊本空港ターミナルビル再建を国として全力で支援する」と表明、国の手厚い支援が事実上決まった。「地震がなかったら、熊本空港がコンセッション方式の対象になり、空港アクセス鉄道が信ぴょう性を帯びることは、まずなかっただろう」。地場有力企業の役員はそう指摘する。
震災後、熊本空港は勢いを回復し18年度の旅客数は346万人。仙台空港に次ぐ全国11位になった。三井不動産を代表に11社が出資する特定目的会社「熊本国際空港」は19年5月、国交省と空港の運営・管理と国内・国際線一体の旅客ターミナルビル建設などを盛り込んだ契約を結んだ。
コンセッション協議と並行して、熊本県はアクセス交通の調査を急いだ。18年12月、蒲島知事は08年6月に凍結していた鉄道新線計画の再検討と建設への意欲を表明した。ルートは、豊肥線の三里木駅(菊陽町)からスポーツイベントが開かれる熊本県民総合運動公園(熊本市)経由で空港へ。単線の高架鉄道。延長は約10km。建設費は約380億円。乗客は1日6,900人。
この試算を基に熊本県はJR九州と協議。鉄道は県主体の第三セクターで建設し、運行はJRに委託。開業後、JRは豊肥線の増収分から建設費の最大1/3を支出することで基本合意した。
■不安残る「採算性」~見通しの甘さも
一連の国交省やJR九州との協議では、財務省から熊本県に出向する企画振興部長の存在が見逃せない。このポストは慣例で財務省主計官補佐経験者の“指定席”。現職の山川清徳氏は17年7月に赴任した。主計官補佐を5年間経験し1年間は国交省担当だった。財務省が求人のため発刊する広報誌には山川氏が書いたとみられる原稿から、国交省やJR九州との協議の一端をうかがえる。
熊本県は鉄道新線の詳細調査を鉄道・運輸機構に委託しており、結果が4月以降に公表される。過去そうだったように、採算性を不安視する声は少なくない。県交通政策課によると、1日利用者6,900人は10年後の2028年度の鉄道開業時の見込み値という。
この数をJR九州の18年度の駅別乗車数に照らすと、豊肥線トップの新水前寺駅4,639人を上回り、鹿児島・長崎線の鳥栖駅7,162人と福岡市近郊の鹿児島線古賀駅6,864人の間に入る。同課は「空港のコンセッション導入前の数字で、もっと増えるはず。ただ建設費も概略ルートの試算なので増えるかもしれない。あとは運賃をどうするか。いずれにしろ詳細調査の結果を待ちたい」と話す。
順調に進めば、次のヤマ場は県主導の第三セクター会社の設立、国交省の鉄道事業の許可だ。採算性の見通しを求められる局面がなお続く。
【重原 功】
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