クイーンズヒルの係争に決着~復権の創業者長男に求められる企業価値向上
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2019年12月2日、(株)ザ・クイーンズヒルゴルフ場(以下、クイーンズヒル)の代表に創業者の長男である田原司氏(以下、司氏)が就任した。同日、元役員3名が退任。株式の所有権をめぐる司氏と法人・クイーンズヒルの訴訟は司氏が勝利した。司氏は自分の思いや新たな人事に関する文書を会員に発送。囁かれているクラブ売却説を否定した格好だ。
新社長が会員に送った決意表明
2月に2通の文書が会員向けに送られた。初旬に田原司氏から会員に送られたのは『田原司が想う「ザ・クイーンズヒルゴルフクラブ」の未来像』という表題の文書。司氏が代表就任後の2カ月間にわたり会員や従業員の声を集約したこと、そのなかで設備の汚さや労働環境の厳しさなどを指摘されたこと、一方でクイーンズヒルの魅力を再認識したことなどが記されている。
司氏は開業来約30年システムがアップデートされていないことに気付いたとして、時代にフィットした未来志向のゴルフクラブづくりを目指すことを表明している。具体的には従業員の労働環境と運営面の整備に向け、企業内託児所の設置検討やコース・クラブハウスの改修に着手することを挙げている。
また、自身のゴルフ場経営経験の浅さを認めたうえで、知見をもつプロチームで運営していくことを主張。売却説を指すと思われる「一部報道やさまざまな憶測が流れているとの話を耳にしている」、としたうえで「数年の間に輝いていたザ・クイーンズヒルに復活させる」という意気込みを示している。少なくとも当面の売却は予定していないことを表明したかたちだ。
その後中旬になり「人事変更のお知らせ」という文書を発送。副支配人2名の登用を知らせている。1人は県内のゴルフ場で所属プロだった人物で支配人代行業務、会員、コースを担当する吉原信次氏。もう一名は労務や施設、運営を担当する内容を伝えるもの。副支配人の挨拶として排水不良や樹木、グリーン管理や練習場の充実に取り組むことが記されている。
高裁判決直前の急展開
司氏と法人・クイーンズヒルとの訴訟では、19年5月に福岡地裁より全株式の所有権が司氏にあるという判決が下された。法人・クイーンズヒルは即座に控訴。戦いの場は福岡高裁に移った。
ところが、クイーンズヒル側から新しい主張が出ず弁論は10月の1回で終結。12月20日に判決が下される予定だった。この間の経緯や一審判決の結果を見ると二審では司氏が勝訴する公算は極めて高かった(実際に高裁判決で司氏が勝訴した)。
ところが、司氏は判決を待たず12月3日にクイーンズヒルに乗り込み従業員に自身の代表就任の事実を伝えている。法人登記によると2日付で、司氏が代表に、公認会計士が取締役に新たに就任。支配人で代表取締役・横田俊介氏ら役員3名は2日付で退任している。
判決まで40日を切った11月11日、司氏は5月の勝訴を根拠に自身の所有権を認める仮処分命令を裁判所に申し立てていた。これが11月21日に認められ高裁判決が下りるまで株主権は司氏にあるという決定が下された。
この決定のもとに司氏は12月2日に代表就任。3日に乗り込み経営権を掌握した。この時を境に従前の横田氏は、従業員を含めてクイーンズヒル関係者と連絡が取りにくい状況に陥った。この時期横田氏にはなぜかクイーンズヒルの運転資金横領の疑惑が浮上しており、このタイミングでの横田氏の“失踪”は横田氏による不正説に勢いを与えることになった。実際には弁護士に相談し、その指示に従っていた。
民事再生阻止への攻勢
約40日待てば自身の勝訴の判決を得られたにもかかわらず、司氏はあえて仮処分申請に至った。仮処分命令書によると司氏はクイーンズヒル側が民事再生法適用の検討に入ったことがわかる文書を入手したことで、申請阻止を図ったのだ。
クイーンズヒルの代理人弁護士が10月24日に作成した文書には、クイーンズヒルが民事再生法の申請を検討していること、スポンサーが存在することが記載されている。裁判の過程で司氏は和解案をクイーンズヒル側に提示していた。この時期(29日)、クイーンズヒル側は和解を検討する返事を行っていた。司氏は相反する行動を「二枚舌」と批判し仮処分申請を行った。40日後に勝訴したとしても先に民事再生法を申請されれば取り返しがつかない、という主張だ。裁判所はこの司氏の仮処分を認めた。クイーンズヒル側による民事再生法の阻止を目的とした一手だった。
従業員が労働組合結成か
司氏が代表に就任する前のクイーンズヒルの役員陣は代表取締役・横田氏、取締役・古川純治氏、監査役・村山健二氏。いずれも司氏の父・田原學氏から直接薫陶を受けた人々だ。司氏が訴えていたのは法人・クイーンズヒルだが、この3名との経営権争いともいえる。
しかし、実質的に経営の重要な意思決定を行ってきたのは彼らではなかった。顧問弁護士の木上勝征氏は、2011年に田原學氏から会員権償還や運営一切とサービサーとの交渉を受任している。会社の実印は木上弁護士が管理し、経営の意思決定を行ってきたとされる。横田氏は代表取締役を務めていたとはいえ経営の根幹に関わる決定権を有していないことを挙げ、先述の横領説を否定している。
こうしたなかで、クラブ運営の今後に不安を抱える従業員たちが労働組合結成を目指す動きがあることがわかった。関係者によると、経営権をめぐる争いに従業員や会員を巻き込んだことに憤りを感じた社員たちが、クラブの将来を案じていることが発端とされる。またゴルフ場売却への懸念を示しているという。
「全理事辞任届」の影響は
クラブの理事にはそうそうたる顔ぶれが並んでいた。理事長の新出光顧問・出光芳秀氏はじめ地場財界人7名と顧問弁護士の合計8名だ。こうした人々は、今年1月、出光理事長を含め全員が辞任届を出したことがわかった。実権を掌握し付加価値向上に意欲を燃やす司氏だが、いきなり看板理事を失う難局を迎えることになる。
また、司氏の仮処分申請の理由から、今回の経営権をめぐる争いは民事再生申請を目指す法人・クイーンズヒルと、自主再建を目指す司氏という側面があったことがわかる。クイーンズヒルは借入金以外に預託金100億円以上の負債を抱えていた。9割近くの会員は永久債への転換に同意したとされるが、一部会員から提訴され全額返還を命じられる判決を受けている。
今後、同様の係争が増えればさらに負担は増加する。これらに耐える収益をどのように捻出するのか。会員や従業員に示した文書やコメントとは裏腹に事業売却説は根強い。企業価値を向上させるにも、財務体質を含めた経営の透明化と現実的な経営計画の公開が求められる。今回、前代表横田氏はインタビューに応じたが、司氏からはコメントを得られなかった。会員やお客、債権者を安心させるためにも反論があれば主張していただきたい。
【鹿島 譲二】
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