2024年11月30日( 土 )

2016年発達障害者支援法が改正 雇用障害者数、過去最高を更新(3)

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 障害者の職業の安定を図る「障害者雇用促進法」が改正され、障害者雇用率(法定雇用率)の引き上げと、雇用対象となる障害者の範囲に「発達障害を含む精神障害者」が新たに加わった。厚生労働省が発表した2018年度の民間企業による障害者の雇用状況は、雇用障害者数・実雇用率ともに過去最高を更新。なかでも発達障害を含む精神障害者の雇用数が急増している。企業は発達障害者の雇用にどう向き合えばいいのか。

これだけは理解しておきたい発達障害の基礎知識

 では、発達障害に関する著書・監修書が多い宮尾氏に、発達障害を正しく理解するための基礎的な知識を解説してもらう。

 「発達障害とは、子どもが発達していく過程のどこかに問題が生じてくることを指しています。さらに精神病的な症状ではなく、認知(理解や行動する過程)に問題があり、生活や学校生活上に問題が生じる状態といえばわかりやいと思います。これまで発達障害は原因がよくわからなかったために、親の育て方、本人の性格、生活環境のせいなどと思われてきました。また親自身も『自分たちのしつけが悪かったのだろうか』『愛情の注ぎ方が足りなかったのでは』と悩み、自らを責めて苦しむ人が少なくありませんでした。しかし現在では研究が進み、発達障害は生まれつきの障害で、脳の機能に何らかの不具合があるために不適応の状態が起こること、親の育て方や本人の性格とは無関係であることが明らかになっています」

 発達障害は、生まれながらに脳機能に何らかの不具合があることで起こる障害であることはわかった。では、どうして脳に障害が起こるのだろうか。

 宮尾氏が続ける。

 「原因やメカニズムについてたしかなことはまだよくわかっていませんが、2つの要因において研究が進められています。1つは、遺伝子には問題がないが、妊娠中や出産時における何らかの影響が、胎児の脳に障害をつくるというもの。もう1つは、精子と卵子がそれぞれ持っている遺伝子の情報に何らかの異常が起きて、脳に障害が起きるというものです。前者は、今のところ『原因の一部になっているようだが、主原因とはいえないかもしれない』という見方が有力のようです。後者については、たとえば基本的に同じ遺伝子を持つ一卵性双生児の場合、1人が発達障害だと、もう1人も発達障害である確率が40%~98%と高くなります。この点では、遺伝子との関わりがありそうだといえるかもしれません」

 だが遺伝子と何らかの関係があるからといって、単純に親から子へ遺伝すると思い込むのは早計だという。

 「双生児でも遺伝子の違う二卵性双生児や、兄弟姉妹の場合は、ともに発達障害を発症する確率は5~10%にすぎません。しかし、発達障害の親から発達障害の子どもが生まれる確率は、かなり高いことがわかってきました。ただし親から子への遺伝を裏づける科学的証拠やデータは、十分あるわけではありません。発達障害の遺伝子をもっているとは考えにくい親から、発達障害の子どもが生まれることがありますし、発達障害のある子どもの兄弟姉妹であっても多くは普通に成長しています」

 発達障害には、大きく3つのタイプがある

発達障害の図表見本
発達障害の図表見本
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 発達障害にはいくつかの種類があり、大きく「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」の3つに分けられる(別表参照)。

 発達障害の臨床経験が豊富な宮尾氏にわかりやすく解説してもらおう。

 「どの種類の発達障害かを見分けるために、さまざまな診断基準や指標が設けられています。発達障害の現れ方は人それぞれで、単独の障害として現れる場合もあれば、複数の障害が併存している場合もあります。ASDは、かつて「自閉症」「自閉性障害」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」など、さまざまな名称が用いられていました。しだいにこれらをまとめて1つの連続体(スペクトラム)ととらえるようになり、現在では自閉症スペクトラム障害の名称が広く用いられています。ASDの大きな特徴は、『コミュニケーションの障害』『社会的なやりとりの障害』『こだわりの行動』の3つがあります。そのために普通とは違った行動をとり、周囲を戸惑わせることがありますが、それはしつけができていないわけでも、わがままなわけでもありません。またADHDによく見られるのは、『不注意』『衝動性』『多動性』の主に行動面における特性です。さらにLDは、知的能力が“部分的”に遅滞している状態のことです。知的能力には『聞く』『話す』『読む』『書く』『計算する』『推論する』などがありますが、これらのうち1つ以上に遅れや困難が認められます」

(つづく)
【古木 杜恵】

<プロフィール>
宮尾 益知(みやお・ますとも)

 東京都生まれ。徳島大学医学部卒業。東京大学医学部小児科、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年にどんぐり発達クリニックを開院。
『発達障害の基礎知識』『職場の発達障害』など多くの著書がある。専門は発達行動小児科学、小児精神神経学、神経生理学、発達障害の臨床経験が豊富。

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