2024年11月22日( 金 )

世界を混乱させる新型コロナウイルスCOVID-19の感染力(1)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 「再選間違いなし」と思われてきたトランプ大統領の前途に暗雲が立ち込み始めた。新型コロナウイルスについて、トランプ大統領は「アメリカには世界最高の医療チームが健在だ。多少の感染者は出るかもしれないが、まったく問題ない」と豪語していた。ところが、カリフォルニア州、ワシントン州、テキサス州などで次々と感染者が発生。死者も相次いでいる。そして「トランプ・タワー」がそびえるニューヨークでも感染者が確認。とくに感染者の拡大が止まらないカリフォルニア州のロサンゼルスでは3月4日、ついに「非常事態宣言」が発令された。

ペンスに丸投げしたトランプ

 トランプ大統領は危機感を強めているようで、自分の給料から10万ドルをCOVID-19対策に寄付すると宣言。しかし、感染症研究所の予算を大幅にカットしたことは内緒。大統領就任時には「給料を受け取らない」と宣言していたはずなのに、しっかり給料を受け取っていたことが判明し、国民の間では不信感と失望感が巻き起こっている。

 マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツによれば、「100年に一度の強烈な病原菌で、感染者は1,000万人を超えるだろう」。WHO(世界保健機関)も「感染はじきに世界中に広がるだろう」と警告を発している。その影響で、ロサンゼルスやニューヨークではIT関連の展示会や投資セミナーが次々に中止。トランプ大統領肝いりの3月14日からラスベガスで開催される予定だったアメリカとASEAN10カ国の首脳会談も延期となった。

 最も深刻なのはニューヨークの株式市場が過去最大の3,500ポイントの下げ幅を記録したことである。投資家の間に景気の先行きに対する不安感が蔓延してきたわけだ。その後も株式市場は乱高下を繰り返している。トランプ大統領の最大の強みは「史上空前の株価上昇を通じ、世界最強のアメリカ経済を実現した」と自画自賛してきたように、株式市況を押し上げたことである。こうした株価上昇神話がもろくも崩れ始めた。景気と雇用の拡大の追い風を受け、再選を勝ち取るという戦略が危うくなってきた。

 そのためトランプ大統領は「株価急落の責任は不安感をあおるメディアとうそつき民主党にある」と責任転嫁に走り出した。しかも、長男のトランプ・ジュニアをメディアに登場させ、「民主党はロシアによる大統領選への介入疑惑騒動や弾劾裁判を通じてトランプ政権の信用を落とそうとしたがうまくいかなかったので、今や新型コロナウイルス拡大の責任をトランプ大統領に押し付けようとしている」と言わせた。

 この身勝手な対応にはアメリカ国民もあきれている。自身の選挙戦の先行きに不安を感じたせいか、トランプ大統領は「今後のコロナウイルス対応の責任者はペンス副大統領だ。なぜなら、彼はインディアナ州の知事時代に医療体制を強化した実績がある」と、もっともらしい理由をつけて矢面から逃れる算段を始めた。

 各地で感染が確認されたアメリカ人は海外渡航歴もなく、陽性反応者との接触もなかったため、「初の空気感染者か」との疑いすら濃厚となっている。しかも高級な介護施設に入っていた男性や、そこで介護に携わっていた50代の女性であったり、地元の高校生であったりといった具合で、必ずしも重篤な持病のある高齢者とは限らない。

 となると、「感染拡大をばっちり抑えている」と主張するトランプ大統領は早晩、厳しい局面に追い込まれかねないだろう。アメリカ国内では「トランプ・ウイルス」という言葉も流行り始めたほどだ。その点を見越して、「責任者はペンス副大統領だ」と丸投げを決め込んだのかもしれない。

 実は、11月の選挙で何が何でも再選を勝ち取りたいトランプ大統領は、どうやらペンス氏を切り捨て、副大統領候補には前国連大使でインド系アメリカ人女性のニッキー・ヘイリー氏を口説いているようだ。全米各地の共和党の資金集め集会では彼女の活躍ぶりが目立ってきた。

 2月末のインド36時間弾丸訪問もアメリカ国内でITや医療の分野で影響力を増すインド系アメリカ人へのアピール材料を増やすのが最大の目的だったと思われる。自分の都合を最優先する「トランプ・ファースト」ではアメリカ国内のウイルス感染スピードも加速する一方になるだろう。

 責任を押し付けられたペンス副大統領は全米各地の病院や介護施設を回り、感染症対策の最前線に立たされている。しかし、訪問したフロリダ州のタンパ市にある「サラソタ・ミリタリー・アカデミー」では学生らと握手し、政府の感染症対策に理解を求めたのだが、その直後に、同校の学生と母親がCOVID-19に感染していた疑いが急浮上。2人はすでに隔離されているが、ペンス副大統領にも感染したのではないかと懸念が広がっている。

 うがった見方をすれば、トランプ大統領は自分を感染のリスクから守るためにペンス副大統領を身代わりにしているのかもしれない。何しろ、トランプ大統領は「感染の拡大する国からのアメリカ入国は全面的に禁止することを検討中だ」と述べ、すでにストップさせている中国や韓国に加え、「日本も入国禁止の対象国になり得る」と「アメリカ・ファースト」に固執する考えを明らかにしている。同盟国の日本と協力して感染症対策を強力に推進しようというような発想はまるで見られない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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