2024年11月21日( 木 )

続・福岡市東区のマンション、構造計算問題(前)

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 NetIBNewsでは先日、福岡市東区の分譲マンション(以下、Kマンション)の建物傾斜問題、そして構造計算における柱梁接合部の検討の省略という設計問題について報じた(福岡市東区の傾斜マンション、構造計算にも問題あり! )。同記事に対し、大きな反響があり、ほかのマンションの方からも、マンション販売会社に対する不信感などについての意見が何件も寄せられた。前回インタビューに応じてくれたAが再度インタビューに応じてくれたので掲載する。

 ――前回お話いただいた福岡市東区のKマンションの構造計算問題が、大きな反響を呼んでいます。JR九州が分譲した福岡市内の他のマンション区分所有者からも、マンション販売会社に対する不満などが編集部に寄せられました。

 A氏 マンションの不具合に対して誠実に対応するデベロッパーの方が極端に少ないと思います。過去のマンション紛争の事例を見ても、区分所有者が泣き寝入りをするケースがほとんどです。裁判になった場合、原告である区分所有者にとって不利になる壁が存在しているからです。

 ――Kマンションでは現在、建物の傾きや杭が岩盤に到達しているかなどについての調査が進められています。この調査結果によりマンション販売会社やゼネコンの責任を一元的に追求できるのでしょうか?

 A氏 調査は実施しないよりも実施した方がいいという程度のものです。建物の傾きや杭が支持地盤に到達していないことが判明しても、デベロッパー側やゼネコンは施工が原因とは認めないでしょう。現に、JR九州は区分所有者に対し、これまでの不具合について「福岡西方沖地震などの影響」などと説明しています。

 現在進められている調査では、仮に裁判となった場合、被告(デベロッパー・ゼネコン)側が調査結果の信ぴょう性を否定してくるので、裁判官立ち会いの下、再度調査を行わなければならなくなります。過去の裁判でも同様のケースが数多くあります。つまり、現在進められている調査は無駄になる可能性が高いということです。このことは、調査を請け負ったコンサルタント会社は知っているはずなので、なぜ、助言をしなかったのか?私は、はなはだ疑問に感じます。不具合の原因を立証する義務は原告側にありますが、このハードルが金銭的にも非常に高いものとなります。

 ――調査費用は管理組合から支出されていると思いますが、それが無駄になれば、管理組合内で問題になりそうですね。

 A氏 管理組合内部のことは調査会社には関係のないことです。「裁判に勝訴した場合の成功報酬」ではないので調査を受注できれば良いという考えかもしれません。

 先ほど述べたように、原告側に瑕疵の立証義務があり、そのハードルは非常に高いので、客観的に追及できる効果的な方法で責任を追求すべきだと思います。

 ――具体的にはどんな方法が考えられますか?

 A氏 前回話した「鉄筋コンクリート造(RC造)の接合部の検討を行っていないこと」などは、本来行うべき検討を意図的かどうかは別として結果的に省略しているのですから、「知らなかった」で済まされることではなかったと思います。

 RC造の柱と梁が交差する接合部には地震時に大きな力が加わり、脆性破壊を招き、20%前後の耐力不足に直結します。必要であれば、RC造の接合部の検討に関する技術的な資料を提出しても構いません。

 ――「RC造の接合部の検討の省略」は6番館だけではなく、Kマンションの他の棟にも共通する問題と考えられますか?

 A氏 これは全ての棟に共通する問題です。これまでは6番館だけの問題であり、他の棟の区分所有者は他人事だったと思いますが、他人事ではなくなるので、多くの方が声を上げるべきかと思います。また、この問題は、他のマンション共通する問題であり、構造設計を行っている現役の建築士も行政も認識しています。

 ――RC造だけでなく、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)においても、不適切な設計が明らかになり、NetIBNewsで何度も報じた東京都豊洲市場における「SRC造の保有水平耐力計算における不適切な構造特性係数(Ds)の採用」という事例がありました。この件について、東京都は豊洲市場を設計した日建設計の擁護に終始し、驚くことに、東京地裁まで東京都に忖度し、実質的な審理に入らないまま、結審をしようとしています。

 A氏 一度も実質的な審理に入らないまま結審という東京地裁の暴挙には驚いています。これは、具体的な内容の審理に入れば被告である東京都が反論のしようがないので、東京地裁が東京都に忖度したと考える以外に説明がつきません。

 司法が行政に忖度するようでは三権分立が崩壊したも同然です。国レベルでも、官僚が行政の長たる内閣総理大臣に忖度する姿が何度も見受けられます。

 ――弊社は昨年9月、西鉄に対して、SRC造の構造計算における不適切な係数の採用について質問書を送付しました。これは、西鉄が分譲したマンションにおいて、不適切な係数の採用が判明したからです。西鉄からは通り一遍の回答が返ってきて、「福岡県から建築基準法の規定に適合していると通知をもらっている」ということでした。

 A氏 「福岡県が建築基準法の規定に適合と通知している」とのことですが、福岡県建築指導課は、SRC造の保有水平耐力の係数について認識を持ち合わせていなかったのです。一度、データ・マックス社から福岡県に関連する質問をされてはいかがですか?

 ここで分かるように、行政・マンション販売業者は「建築関連の認可を得ているので仮に違法であっても危険であってもOK」という逃げ道があるのです。

 ――RC造の接合部の検討をしていなくても「建築基準法の規定に適合」だと福岡県が認めるのであれば、RC造の接合部の検討をしなくてもいいのではないでしょうか?

 A氏 当然の質問です。日本建築学会の鉄筋コンクリート構造計算規準に規定しているので、法的にも検討が必要です。しかし、西鉄やJR九州などのデベロッパーだけでなく、もし、行政である福岡県まで「検討の必要ない」という見解であれば、撤廃すべきです。

 現実的にこの規定をクリアするためには躯体を相当大きくしなければならず、余計な建築コストの負担を建築主に強いていることになります。検討が必要なことは当然理解していますが、この件も、データ・マックス社から質問してはいかがですか?

 ――もちろん、検討が必要なことは承知していますが、福岡県の見解や、SRC造の問題になりますが、東京都の見解などを見ていると、行政側たちの都合により、{検討必要・検討不要}と一貫性がないように思えます。

 A氏 検討しなければならなかったことを、建築確認審査において指摘しなかった行政側のミスをもみ消したいから、行政側は接合部の検討をしていなくても「適法」と言わざるを得ないのです。これは、法治国家の崩壊であると思います。このようなことであれば、建築確認制度そのものを廃止した方が良いのかもしれません。

(つづく)
【桑野 健介】

(後)

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