なぜCOVID-19はこれほど恐れられているか?〜過度に恐れる必要はないが、決して敵を甘くみてはいけない!(前)
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大阪大学元総長 平野 俊夫 氏
NetIBNews編集部宛に大阪大学元総長・平野教授によるコロナウイルスの解説(3月27日付)が同氏の友人から送られてきたので、本日より3回に分けて紹介していきたい。
最近、知り合いの開業医から、「季節性のインフルエンザでさえ毎年60万人の人が世界で死亡しているのに、なぜ新型コロナウイルス(まだ2万人しか死亡していない)でこれほど世界中が大騒ぎしているのか?」という質問を受けました。
確かに政府の説明を聞いているとオーバーシュートとか感染爆発の危機が目の前にあるので、ひたすら自粛に協力してほしいというだけで、なぜこのまま放置しておくと、どのように大変なことになるという具体的な説明がありません。いかに深刻であるかという事実をよく説明したうえで、だからこそ、そのような深刻な事態に陥らないために対策するのであると、訴えなければ説得力はないと思います。
また本当は1万m競争、あるいはフルマラソンなのに100m競争のように全力疾走をすると、フルマラソンはもちろん1万m競争も完走不可能です。COVID-19との戦いは100m競争(水際作戦は100m競争です)ではなく、パンデミックになった現時点では、1万m競争、あるいはフルマラソンであることを認識する必要性があります。ペース配分を十分に考えて走る(対策を立てる)必要があると思います。
前書き
昨年12月に中国で発症した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は当初中国政府が情報公開せず、また事態を甘くみていたこともあり、瞬く間に武漢を中心に中国に広がりました。その後ダイヤモンドプリンセス号の感染症騒ぎがありました。2月24日に開催された専門家会議が、今後1~2週間が瀬戸際であるとアナウンスしました。その後、学校の休校が始まりました。ヨーロッパ、とくにイタリアの感染拡大にも関わらず日本は何とか押さえ込みに成功した感がありました。しかし最近は日本全体に気の緩みがでて危険な状態にありました。そのような中で、大阪府知事より3月20~22日の3連休は大阪と兵庫県の行き来を自粛する要請がありました。3月25日には東京都知事が緊急記者会見を開きました。そして26日に政府が対策本部を設置し、いつでも緊急事態を宣言できる体制を整えました。このように、今、日本は感染爆発の瀬戸際にあります。
世界に目を向けると中国に端を発した感染流行は今やヨーロッパに広がり、イタリアでは医療崩壊が起こり、死者は中国の2倍以上になりました。そして流行地はアメリカに移りつつあります。世界で44万人が感染し死者は2万人以上になりました。インドは13億人の国民の外出禁止、移動制限を発令しました。中国が情報公開しなかったのがそもそもの原因ですが、欧米やWHOも当初甘くみていた節があります。おそらく以前の新型インフルエンザ、SARSやMERSのように封じ込めに成功すると考えていたのではないかと思います。しかし、封じ込めに失敗し、世界にウイルスが拡散してしまい、もはや後戻りができない状態にまで進展してしまいました。
では、なぜ新型コロナウイルス感染症は恐れられているのか?季節性インフルエンザとなにが異なるのか?
まず、心理的な側面があります。季節性インフルエンザはワクチンと治療薬がありますが、新型コロナウイルスに対してはワクチンも治療薬もありません。人は、自分でコントロールできないことに対しては漠然と不安を抱きます。しかし、単に心理的な側面だけではなく、もっと重大な客観的な事実があります。
人類の歴史は感染症との戦いであったと言っても過言ではありません。中世ヨーロッパでは人口の50%近くがペストの流行で死亡し、ヨーロッパの中世封建体制が崩壊しました。アステカ文明やインカ帝国の滅亡も感染症が大きな原因となりました。16世紀当時、北米や南米には天然痘がそもそもなかったので、現在の新型コロナウイルスのように人々は免疫がありませんでした。一方、ヨーロッパでは天然痘の流行がしばしばあったので、ある程度免疫がありました。わずか200人のスペイン人兵隊のなかで1人が天然痘にかかっていました。この1人からインカ帝国2,000万人にあっという間に天然痘が広がり、半数近くの人々が死亡したと考えられています。そして、インカ帝国は1年でスペインに降伏しました。新型コロナウイルスは当時のインカ帝国の人にとっての天然痘に相当します(もっとも天然痘の致死率は50%ぐらいなのではるかに危険ですが)。
(つづく)
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