【BIS論壇No.317】「コロナウイルス禍と一帯一路」
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NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。今回は2020年4月12日付の記事を紹介。
4月11日現在、世界の新型コロナ感染者数は約167万人、死者数は10万人を超え、感染が急速に世界に広がりつつある。その影響で、世界経済は2008年のリーマン・ショックはおろか、1929年以来最悪の事態になるとの悲観論が出始めている。戦後最大の危機を迎え、コロナ後の世界構造は一変すると見られる。その対応にインテリジェンスを活用した戦略が求められている。4月11日夜のNHK・教育テレビの緊急対談「パンデミックと世界」の米イアンブレマー、イスラエル・ノア・ハラリ、仏ジャック・アタリなど世界の知性の提言は見ごたえがあった。
筆者は長年の中央アジア、上海協力機構(SCO)、「一帯一路」の研究から、コロナ後の世界経済の主導力は中国が人類運命共同体を標榜する「一帯一路」が大きな役割をはたすのではないかと考える。世界最大の陸地を有するユーラシア大陸を高速鉄道、高速道路、航空、通信ネットワーク、通信衛星「北斗」を活用した宇宙通信、送電網、パイプラインなどで沿線各国を連結する構想は今後、東アジアから世界最大の貿易ネットワークを構成する欧州連合(EU)をコネクトする広大な広域経済圏構築を目指している。
21世紀末に40億人に達するというアフリカ、さらに40億人を超えるアジアのアフラシアを包含する地域を陸と海から連結する世界最大の貿易経済圏が生まれる。
日本としても、「一帯一路」への参加。北京の「アジアインフラ投資銀行」「シルクロード開発基金」、上海の「BRICS開発銀行」への金融協力を強化すべきであると思われる。産業革命後の英国を世界最大の経済大国、パクス・ブリタニカにしたのは工業力ではなく、海運業であった(玉木俊明)。いわゆる物流網を抑えたからであった。20世紀の米国のパクス・アメリカーナは大西洋から太平洋への大陸横断鉄道を完成させ、さらに大陸高速道路網を構築し、パナマ運河を開通させた陸海における物流網が大きく貢献した。
中国の「一帯一路」は21世紀に世界の貿易センターとなるユーラシア大陸を中心に陸と海のシルクロードを通じ、港湾、自由貿易区、インフラを構築し、製造、物流網拡大を目指す21世紀の遠大な構想である。さらに19世紀のスエズ運河、20世紀のパナマ運河に匹敵する北極海航路の開拓にも中国は注力している。米国・トランプの自国本位のアメリカFirstや一部の国のポピュリズムはコロナ後の世界では通用しなくなるのではないか。
かかる状況下、米国は米中貿易戦争から抜け出し、世界各国、とくに中国と協調、協力し、コロナ後の世界へのグローバル戦略を打ち出すべきであると考える。日本もこの機会に米国追随をやめて、21世紀を見据えた日本独自の健康医療、経済貿易戦略を打ち出すことが肝要である。競争でなく国際協調、協力こそがコロナ後の日本が目指す戦略であるべきだ。
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)関連キーワード
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