脱毛エステ「ミュゼ」が嵌った前金商法の落とし穴（前）

　女性専門脱毛エステ最大手「ミュゼプラチナム」を運営する（株）ジンコーポレーション（本社：東京都渋谷区）は、今夏から経営危機が報じられてきたが、とうとう表面化した。
　10月６日、高橋仁社長が記者会見を行い、私的整理手続きに入ったことを明らかにした。借入金の返済が滞り、メーンバンクの常陽銀行や足利銀行、取引先などに債務の支払期限の延長を求める。事業を続けたうえで、再建計画をまとめ、来年３月までに銀行団の同意を得ることを目指すとしている。

脱毛の激安商法で急成長

　脱毛エステの「ミュゼ」といえば、20代の女性であれば知らない人がいないほど有名。今春にはイメージキャラクターが、長年務めてきた人気モデルのトリンドル玲奈から、モデルのラブリに変わったことが芸能誌の話題になった。
高橋仁社長は、「ミスユニバース2014」の審査を務め、今年３月には郷里のサッカーチーム「福島ユナイテッドFC」とスポンサー契約を結んだ。馬主４年目で今年の日本ダービーへ愛馬を送り出すなど、羽振りのいい会社だった。

　高橋仁社長は1968年12月2日、福島県二本松市に生まれた。95年、立教大学社会学部産業関係学科卒。商売のほうが性に合ったようで、在学中から不動産会社で営業として稼いだ。退職後は大手エステサロンで美容部部長になった。
当時のエステは、金額が張るローンを組むことが多かった。格安にして敷居を低くすれば、たくさんの女性が使うようになり、マーケットは広がると考え独立を決意。

　99年、エステサロンの開業資金を得るために、郷里でラーメン店を開店。2002年８月、福島県郡山市に有限会社ジンコーポ―レーションを設立（04年12月、株式会社に改組）。
　03年７月、脱毛エステサロン「ミュゼプラチナム」１号店をオープンした。ミュゼはフランス語で美術館という意味。脱毛に特化したフラッシュランプによる光脱毛だ。
　08年１月、東京本社を新設、全国展開をはじめた。全国188店に加え、香港、シンガポール、マレーシア、トルコなど海外にも22店を進出、251万人の会員を抱えた（15年４月末現在）。
　「美容脱毛完了コース100円」「30～50％OFF」の激安商法で急成長。14年８月期の売上高は前年同期比21.0％増の386億7,100万円。従業員は3,868人。14年には、エステティックサロン経営動向調査で売り上げNO1を獲得した。脱毛サロン以外にも、グループ会社でラーメン店などの飲食業、化粧品ブランド開発の事業を手掛けている。

告発された疑惑の商法

　美顔や痩身、脱毛など、エステサロンの業界のなかで、急成長をとげたのが脱毛だ。脱毛サロンが乱立・低価格競争が繰り広げられた。それにともない、各地の国民生活センターに脱毛サロンについての相談が急増。やけどや皮膚トラブルなどの苦情が相次いだ。
　ミュゼでは昨冬以降、スタッフが不足しているのに、テレビCMや電車の中吊り広告を打ち続けた。会員は急増したものの、予約がまったくとれないとクレームが殺到した。
　ミュゼ商法を告発したのが新潮社系会員制情報サイト「Foresight（フォーサイト）」。「『医師法違反』の声もある『脱毛エステ』疑惑の商法」（15年５月21日）、「『脱毛エステ最大手』に浮上した『経営危機説』『健康被害隠蔽』」（６月19日）、「『脱毛エステ最大手』ついに『経営破たん』：刑事事件に発展も」（８月25日）と立て続けに報じた。
　インターネット上で経営を不安視する声が広がり、８月下旬から９月上旬にかけて解約件数が急増。会員が前払いした代金の返還費用が膨らみ、資金繰りが悪化。そのため、メーンバンクの常陽銀行や足利銀行に借入金の返済期限の延長を求めたというわけである。

（つづく）