2024年11月05日( 火 )

刑事施設にも新型コロナの脅威~被収容者らが明かす不安な現実

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 200人を超す受刑者が感染によって死亡したと報じられた米国をはじめ、海外では刑事施設で新型コロナウイルスの深刻なクラスターが続々と起きている。日本の刑事施設のコロナ対策は大丈夫だろうか。全国の被収容者たちに実情を取材したところ、不安を覚えざるをえない情報が多数寄せられた。

布マスクを洗濯できるのは週1回

 大阪拘置所で刑務官8人が感染し、東京拘置所でも被収容者の感染が判明するなど、すでに日本の刑事施設にも新型コロナウイルスの脅威はおよんでいる。法務省も先月以降、緊急事態宣言の対象となった7都府県の刑事施設で弁護士以外の面会を制限するなど、感染防止のための措置を講じ始めた状況だ。

 だが、被収容者たちの話を聞くと、対策が十分とは思い難い。まず、刑事施設では今も深刻なマスク不足が続いているようだ。東京拘置所に収容されて裁判中の川崎竜弥被告がこう話す。

 「マスクは現在、品切れのために買えません。外部から差し入れてもらったものは使えませんし、拘置所からの支給もありません」

 広島拘置所に収容されて裁判中の中山和明被告も同様の証言をしたうえ、「被収容者でマスクをしている人は見たことがありません」と言い切った。裁判中の被告たちはマスクをせずに過ごしているケースが多数あるようだ。

刑事施設のコロナ対策の実情に関する取材に応じた被収容者たちの手紙

 一方、千葉刑務所で無期懲役刑に服する小松武史受刑者は、「現在、マスクは買えませんが、所内で被収容者たちが作っている〈アベノマスク〉のような物を使っています」と証言。さらに長野刑務所で懲役16年の刑に服しているY受刑者も、「マスクはずっと使えませんでしたが、当所で作った布マスクを4月27日から1枚貸与されました」と話す。受刑者たちは自給自足するかたちで布マスクを使っているようだ。

 ただし、小松受刑者が「マスクは毎日洗っています」とするのに対し、Y受刑者は「マスクを洗濯できるのは週1回だけ。これで清潔に使えるとは思えません」と不安を隠さない。不潔なマスクが逆に感染の原因にならないかも心配だ。

 刑務官については、「ほぼ全員がマスクも手袋もしています」(広島拘置所・中山被告)という証言が得られたが、一方で「マスクを顎まで下げて話しかけてくる刑務官もいます。これでは、マスクの意味がありません」(東京拘置所・川崎被告)と訴える声もある。各施設の長は、刑務官たちにマスクの適切な使用を徹底させるべきだろう。

手洗い、うがいをまったくしない受刑者も

 コロナ対策としては、「小まめな手洗い、うがい」が推奨されている。刑事施設でこれが可能か否かは、収容されているのが独居房か、雑居房かで異なるようだ。

 まず、独居房の場合。東京拘置所の独居房に収容されて裁判中の土屋和也被告は、「独居房は水道があるので、手洗い、うがいは可能です」と証言し、広島拘置所の独居房に収容されている中山被告からも同様の証言が得られた。一方、長野刑務所の雑居房に収容されたY受刑者はこう話す。

 「手洗いやうがいが可能な時間は決まっていて、午前10時頃に1回、昼食前に1回、午後2時頃に1回、1日1回の運動時間終了後に1回です」

 この話を聞く限り、雑居房では、小まめな手洗い、うがいはそもそも無理のようだ。しかも、「手洗い、うがいは強制ではないので、不潔な人はまったくしていません」とのことで、相当危うい印象だ。さらにY受刑者は作業中の状況をこう話す。「私の工場は49人体制です。作業中は通常、席に座って作業しなければなりませんが、隣の人との間隔は、手を伸ばせば届く程度です」。刑事施設は密集、密接、密閉の「3密」の場所、というイメージを裏付けるような証言だ。

受刑者たちの関心はコロナより「エロ本」

 刑事施設は、感染防止のために面会室の通気孔をふさぐ措置を講じているが、これについては、「面会相手の声が聞こえづらくなりました」(広島拘置所・中山被告)という声もあり、被収容者の評判が良いとは言い難い。面会が制限された東京拘置所に収容中の川崎被告は、「面会禁止の不利益は大きく、今は接見禁止に近い状態。代替的に、手紙の発信回数をせめて1日2通にすべきです(通常は1日1通)」と主張するなど、相当不満がたまっているようだ。

 こうした状況が続けば、刑務官と被収容者たちの間で軋轢が生じ、新型コロナ対策で大変な現場がますます疲弊しかねない。もっとも、被収容者たちのなかには能天気な者もいるようだ。

 「私のいる房では、給付金が一律10万円になると決まり、大喜びしている人たちもいます。この人たちには、コロナで安否が心配になる家族がいないのか……と思ってしまいます」と明かすのは、長野刑務所のY受刑者。一方、千葉刑務所の小松受刑者もこう打ち明ける。

 「4月から本の差し入れが厳しくなり、エロ本と名がつく物は、マンガでも居室に入らなくなりました。コロナよりそちらを問題にする受刑者が多いのが現実です」

 被収容者たちの感染防止への意識の低さがクラスターを引き起こす恐れも否めない。

【取材・文/片岡健】

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