2024年12月28日( 土 )

コロナウイルス禍の裏で進むデジタル人民元によるドル追い落とし(1)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏

 日本はもとより世界中が新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威の前にたじたじとなっている。感染者も死者の数もうなぎ上りで、ロックダウンの影響で多くの経済活動は中断や停滞を余儀なくされている。このままでは過去最悪の不況が避けられない状況だ。特効薬やワクチンの開発も各国の研究機関や製薬メーカーがしのぎを削っているが、ビル・ゲイツ氏曰く「早くても2021年になるだろう」とのこと。まだまだ「見えない敵」との戦いは長引きそうだ。そんななか、「ポスト・コロナ時代」の金融や国際貿易の在り方を一変させるような動きが静かに始まった。ある意味では、国際関係そのものを覆す可能性を秘めている。その震源地は今回のコロナウイルスと同じで、中国に他ならない。

中国のポスト・コロナ戦略

 これまで国際貿易の決済は90%近くがアメリカのドルで行われてきた。各国の外貨保有の60%はドルである。そして世界の通貨流通量でいえば、ドルが44%で圧倒的な強さを誇っている。ドルが「国際機軸通貨」と呼ばれる所以である。ちなみに、ユーロは16%、円は11%、ポンドが6%、豪ドル、スイスフラン、カナダドルがそれぞれ3%。人民元に至っては2%に届かない。

 これでは中国は面白くないだろう。なぜなら、現在も世界第2の経済大国であり、2049年の中華人民共和国建国100周年までには「アメリカを抜いて世界第1位の座を目指す」と公言しているからである。「国力のバロメーター」でもある通貨がこれほどマイナーであったのでは、話にならない。

 習近平国家主席とすれば、起死回生の意図を秘め、デジタルの世界で覇権を握ろうという魂胆に違いない。よく知られているように、中国では現金に代わってスマホを使って商品やサービスを購入することが一般化している。アリペイやウィーチャットペイが広く普及しており、本土でも香港でも、タクシーやレストランの支払いはデジタルで行うことが多い。ただし、これは中国に銀行口座がなくては使えない。

 中国の人口は14億人を超えているのだが、2億人以上の大人は銀行口座をもっていないといわれている。日本の全人口以上の人々がアリペイもウィーチャットペイもクレジットカードの銀聯カードも、銀行口座がないために使えないわけである。

 そこで、中国政府は銀行口座がなくても使える「デジタル人民元」を普及させようとの大方針を決定したわけだ。中国人民銀行はじめ4大銀行とチャイナ・モバイル、チャイナ・テレコム、銀聯カードを発行するチャイナ・ユニオンペイ、ファーウェイの8社がデジタル人民元ビジネスを始めることになった。

 しかも、アリペイやウィーチャットペイが使えるところでは、デジタル人民元も必ず使えるようにしなければならないという法律まで整備したのである。本気で中国政府はデジタル人民元の普及に取り組み始めたようだ。アメリカがもっとも警戒しているファーウェイもこの取り組みの中心的存在となり、存在感を高めている。ファーウェイの端末にはデジタル人民元が使えるウォレット機能がついている。

 中国に限らず、世界中で銀行口座はもっていないがスマホはもっているという人は多い。インドやブラジル、アフリカなどでは、人口の80%から90%は銀行口座がない。そんな国でも国民の大半はスマホならもっている。そうしたスマホ人口にデジタル人民元の網をかぶせようというのが中国の「ポスト・コロナ戦略」なのである。

 20年4月、中国政府はデジタル通貨普及に向けての計画を発表した。それによれば、この5月から国内の主要4都市において、公務員の給与の一部をデジタル人民元で支払うという。この発表を受け、中国国内の主要市場では関連する企業の株価が急騰し、2日連続で取引停止となったほどである。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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