2024年11月24日( 日 )

コロナウイルス禍の裏で進むデジタル人民元によるドル追い落とし(2)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏

 日本はもとより世界中が新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威の前にたじたじとなっている。感染者も死者の数もうなぎ上りで、ロックダウンの影響で多くの経済活動は中断や停滞を余儀なくされている。このままでは過去最悪の不況が避けられない状況だ。特効薬やワクチンの開発も各国の研究機関や製薬メーカーがしのぎを削っているが、ビル・ゲイツ氏曰く「早くても2021年になるだろう」とのこと。まだまだ「見えない敵」との戦いは長引きそうだ。そんななか、「ポスト・コロナ時代」の金融や国際貿易の在り方を一変させるような動きが静かに始まった。ある意味では、国際関係そのものを覆す可能性を秘めている。その震源地は今回のコロナウイルスと同じで、中国に他ならない。

ドル基軸体制下の日本の限界

 実は、19年にアメリカのフェイスブック社が「リブラ」と銘打ったデジタル通貨の発行計画を発表した。フェイスブックといえば、世界中で27億人が使っているわけで、その27億人の間でお金のやり取りを行う際に、ブロックチェーン技術を活用してデジタル化を図ろうという構想であった。

 ところが、アメリカはじめ各国の中央銀行や議会から猛反対の嵐が巻き起こった。「フェイスブックは個人情報の管理で問題を起こしている。信用できない。第一、民間の会社が通貨を発行するのはおかしい。裏づけがない通貨などもっての外。通貨を発行できるのは中央銀行だけだ」といった反対の声が大きく、「リブラ」は足踏み状態に陥ってしまった。

 しかし、リブラ騒動の直後、独自のデジタル通貨発行に名乗りを上げた国が現れた。その先陣を切ったのがイランであった。アメリカによる経済制裁を受け、ドルの使えないイランにとっては新たな希望のタネというわけだろう。イランについで動いたのが中国と北朝鮮であった。

 この動きにさまざまな思惑が隠されていることは明らかだ。簡単にいえば、「今の世界には多くの対立が起きている。アメリカの都合で一方的に引き起こされた対立もある。それにもかかわらず、世界貿易の決済がすべてドルというのはおかしい」ということだろう。

 いうまでもなく、中国が貿易の最大の相手国であるという国は、アメリカが最大の貿易相手国という国の数よりはるかに多くなっている。中国は世界の大半の国と膨大な量の貿易を行っているが、その決済は基本的にドルである。

 このようなドル基軸体制の下では、世界中の銀行間の決済業務はSWIFTやコルレスポンディングバンクを通じて行われることになっている。ということは、アメリカの一存でイランでも北朝鮮でも簡単に干上がらせることが可能になる。なぜなら、狙った相手国の政府や企業のドル口座を停止させたり、その国に対するドル決済ができないようにSWIFTやコルレス銀行を動かしたりすることができるからである。

 言い換えれば、アメリカにとってドルという存在は、単なる通貨以上の意味をもっているわけだ。強力な安全保障上の武器にも早変わりするのである。逆の立場からいえば、イラン、中国、北朝鮮にすれば、ドルによって自分たちの首根っこを押さえつけられているとの思いが根深いと考えられる。

 そうした不満の感情が鬱積しているからであろうが、19年末、マレーシアで開催されたイスラム諸国会議の場において、イランのハサン・ロウハーニー大統領は「ドルに対抗できるイスラム・デジタル通貨の設立」を呼びかけたのである。その直後、日本を訪問したロウハーニー大統領は、安倍首相や日本政府の要人との会談において「アメリカが発動した経済制裁で苦境に陥っているイランを支援してほしい」と訴えたが、アメリカの圧力下にある日本政府からは満足のいく返事は得られなかったようだ。この一例からもアメリカのドル基軸体制に組み込まれている日本の限界が明らかになったといえるだろう。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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