コロナウイルス禍の裏で進むデジタル人民元によるドル追い落とし(3)
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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏
日本はもとより世界中が新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威の前にたじたじとなっている。感染者も死者の数もうなぎ上りで、ロックダウンの影響で多くの経済活動は中断や停滞を余儀なくされている。このままでは過去最悪の不況が避けられない状況だ。特効薬やワクチンの開発も各国の研究機関や製薬メーカーがしのぎを削っているが、ビル・ゲイツ氏曰く「早くても2021年になるだろう」とのこと。まだまだ「見えない敵」との戦いは長引きそうだ。そんななか、「ポスト・コロナ時代」の金融や国際貿易の在り方を一変させるような動きが静かに始まった。ある意味では、国際関係そのものを覆す可能性を秘めている。その震源地は今回のコロナウイルスと同じで、中国に他ならない。
コロナ禍を利用する中国の戦略
こうしたアメリカ主導のドル基軸体制に対抗する動きがじわじわと広がり始めてきたのである。とくに中国はアメリカとの貿易通商摩擦を背景に独自のデジタル通貨発行に意欲を燃やしている。中国以外にもデジタル人民元を普及させようとの動きが出てきた。中国が進める「一帯一路」計画のなかでも、中国の出資するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が実施する途上国向け融資をデジタル人民元で行うという選択肢も浮上している。
いずれにせよ、こうした「リブラ」や「デジタル人民元」の動きに対し、世界各国の中央銀行でも独自のデジタル通貨発行に向けての研究や具体化が加速するようになってきた。日銀も例外ではなく、欧州中央銀行(ECB)、カナダ、イギリス、スウェーデン、スイス、国際決済銀行(BIS)との共同でデジタル通貨に関する研究プロジェクトを立ち上げることを発表。アメリカでも中央銀行にあたる連邦準備銀行(FRB)が19年にはデジタル通貨のエンジニアを募集するなど、デジタル通貨に向けた研究を始めたようだ。
実は、後進国の問題はインフレであり、紙幣を印刷してもたちまちインフレで使い物にならなくなってしまう。パン1枚を買うのにもトランク1杯分の紙幣を担いでこなくてはならないといった風景があちこちで見られる。そんな事情もあって、紙幣をやめてデジタル通貨への移行を目指している途上国は多いのである。
しかも、昨今のCOVID-19による感染症の蔓延から、紙幣や硬貨がウイルスの伝染につながるとの指摘もあり、一気にデジタル通貨への関心が高まってきた。中国政府はそうした流れも意識しているようで、デジタル人民元の世界的な普及を通じて感染症の予防にも役立つとのキャンペーンを展開しつつある。
新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞し、厳しい状況に追い込まれている途上国からは国際機関やアメリカ、中国など経済大国への支援を求める声が強くなっている。しかし、国連や世界保健機関(WHO)なども資金的余裕はなく、トランプ大統領のアメリカは「WHOは中国寄り過ぎる」と批判を強め、WHOへの分担金の支払いを停止するとまで宣言。とはいえ事実上、中国やロシアからの医療品の援助に頼っているような「医療崩壊」に直面しているアメリカでは、とても途上国への援助を推進できる状況にない。
ところが、この危機的状況下において、中国が「マスク外交」や「デジタル人民元」作戦を通じて国際的な影響力を拡大しつつあることへの懸念は大きくなる一方である。スティーブン・ムニューシン財務長官曰く「現状はアメリカの国家の存亡に関わる危機的状態だ。このような状況下において中国がデジタル通貨で世界を席巻しようとしている動きを看過することはできない」。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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