コロナウイルス禍の裏で進むデジタル人民元によるドル追い落とし(4)
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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏
日本はもとより世界中が新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威の前にたじたじとなっている。感染者も死者の数もうなぎ上りで、ロックダウンの影響で多くの経済活動は中断や停滞を余儀なくされている。このままでは過去最悪の不況が避けられない状況だ。特効薬やワクチンの開発も各国の研究機関や製薬メーカーがしのぎを削っているが、ビル・ゲイツ氏曰く「早くても2021年になるだろう」とのこと。まだまだ「見えない敵」との戦いは長引きそうだ。そんななか、「ポスト・コロナ時代」の金融や国際貿易の在り方を一変させるような動きが静かに始まった。ある意味では、国際関係そのものを覆す可能性を秘めている。その震源地は今回のコロナウイルスと同じで、中国に他ならない。
デジタル通貨戦略の主役は誰か
今から6年前の14年、中国商務省は「デジタル通貨の研究と実践を通じて、人民元はドルにとって代わる通貨を目指す。その目標は15年以内に達成する」との方針を明らかにしていた。アメリカの財務長官の危機感はよくわかるが、トランプ大統領からは中国のデジタル通貨戦略に対抗できるような動きはいまだ打ち出されていない。いつまでもドルが国際機軸通貨の座に安住できるとの保証はないだろうに。
思えば、紙幣という存在は借金証書である。債権と同じで、国が紙幣を発行すれば、その瞬間から借金が発生したことになる。借金である限り、国に戻ってくればお金になるのだろうが、戻ってこない場合もある。その場合はエクイティ、すなわち株と同じ存在になってしまう。
実は、発行された紙幣がさまざまな理由で銀行に戻ってこないこともある。密輸や闇の世界で使われる場合がそれにあたる。となると、借金で出したはずが返さなくてもよくなるわけで、これは発行した側にとっては大助かり。財政が救われるわけで、アメリカは長年その恩恵を享受してきた。
中国はそうしたアメリカが享受してきた「デット・エクイティ・スワップ」を自分たちもデジタル通貨の発行を通じて得ようと考えているのかもしれない。なぜなら、デジタル人民元を中国人が使っている間は人民銀行にとっては借金であるが、アフリカなどで使われるようになり、エクイティ化してしまえば、中国に戻ってこなくなるわけで、そうなれば中国の財政にとってはプラス以外の何物でもなくなる。
こうした中国のデジタル通貨戦略に対して、アメリカは警戒を強めているが、日本はまったく無関心に近い状態である。新型コロナウイルス騒動の背後で在宅勤務が広がり、テレワークやデリバリーが普及すれば、現金決済からデジタル通貨への移行は急ピッチで進む可能性が出てくる。その時の主役を演じるのは誰か。日本でも使えるようになる「デジタル人民元」か、それとも登場が待たれる「デジタル円」なのか。新たな通貨戦争が幕を開ける日は近い。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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