2024年11月21日( 木 )

【検察庁法改正】史上初?ネット世論が止めた強行採決~維新は「ゆ党」的策動で与党を援護射撃

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ネット上の民意が検察庁法改正案ゴリ押しの安倍政権を揺るがし始めた。「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿は数百万に達し、小泉今日子さんをはじめ多くの芸能人も名を連ねた。これを受けて野党は徹底抗戦、与党が週半ばに目論んでいた委員会採決は来週に先送りされたのだ。

■強行採決を止めた世論のうねり

 改正案最大の問題は、内閣が特例的な定年延長を恣意的にできるようになることだ。 “官邸の守護神”こと黒川弘務・東京高検検事長のような“忖度検察官”のみに特例を認める恣意的運用が可能で、「検察が内閣にコントロールされる」と懸念されている。野党の修正案はこの特例を削除する内容。15日の内閣委員会でも国民民主党の後藤祐一衆院議員が特例的な定年延長基準を示すよう求めた。

森雅子法務大臣がサラ金問題に取り組んでいた頃
(消費者庁担当大臣時代)。向かって右は宇都宮健児弁護士

 しかし初めて内閣委員会に出席した森雅子法務大臣は、「人事院規則に準じて定めます」という抽象的な答弁に終始。それでも採決に踏み切ろうとする与党に対して、野党は武田良太・国家公安委員長制度担当相の不信任決議案を提出。不信任案を優先的に審議する慣例があるため、同委員会での採決は来週に先送りとなった。

 与党内からも異論が出始めた。“主戦場”である内閣委員会所属の泉田裕彦衆院議員(元新潟県知事)は13日、「国会は言論の府であり審議を尽くすことが重要であり強行採決は自殺行為である。与党の理事に『強行採決なら退席する』と伝えた」とツイート。この“造反予告”に対して自民党は、すぐに泉田氏を内閣委員会から外す措置を取った。

 しかし翌14日には、石破茂・元地方創生大臣が派閥のウェブ例会で「国民に納得、理解頂ける状況とはまったく思っていない」と疑問呈示。強行採決に釘を刺す一方で、ネット上の記録的な投稿数についても「国民の意見が具体的な数字で体現されたものと考えるべきだ」(15日付のブログ)と書き込んだ。首相周辺などからの「(数百万の投稿は)あり得ない数字」「世論のうねりを感じない」(5月12日の朝日新聞)という否定的見方に反論した形だ。

■「ゆ党」維新の目論見

ネット上での野党会見

 政権与党内でも“ネット民意”に対する見解の違いが露わになる中、野党側では「日本維新の会」(代表・松井一郎市長、副代表・吉村洋文府知事)が政権補完勢力らしい与党寄りの主張をしていた。

 15日の内閣委員会で「野党の主張にも一理あるが、改正案は言うほどに悪くない」と述べたのは、維新の足立康史衆院議員。ネット配信された12日の「改正案に関する緊急記者会見」でも足立氏は、「定年延長ごときで左右されるほど検察はヤワじゃない」「内閣がおかしな形で検察の任命権をコントロールしたなら、国民が内閣を倒せばいい」と述べて与党を援護した。

 これに対して立憲民主党の枝野幸男代表は「検察がヤワかどうかという印象論は関係ない」「内閣が認めたときだけ定年が延長されれば、検察官は政権の意向に反することがしにくくなる」などと反対。国民民主党の玉木雄一郎代表も共産党の志位和夫委員長も社民党の福島みずほ党首も枝野氏に同調する反対論を述べたので、維新と他の野党とのギャップが鮮明になった。

吉村洋文・大阪府知事

 足立氏と同じ主張をしていたのが、「定年延長法案に反対ではない」と11日に大阪府庁内の囲み取材で述べた吉村洋文・大阪府知事だ。14日の会見で私が「特例的な定年延長で検察が内閣のコントロール下になってしまう懸念が示されているが、それでも反対しないのか」と聞くと、吉村氏はこう答えた。

 「まず本質として考えないといけないのが、検事総長の人事権を誰が持つべきなのか。今までは検察庁の中で完結していた。僕らが選挙で選んだ人とは関係のないところで選ばれるのがあるべき姿なのか。検察庁については、僕は内閣が第一義的に(人事権を)が持つべきだと思います。内閣は選挙で選ばれる人で占められるわけですが、その時の政権のあり方がおかしいのであれば、選挙で降ろせばいいわけです。仮に政府が黒川さんを検事総長に選びたいのだとしても、人事権は内閣が持つべきではないかというふうに思っています。検察庁法改正案については反対ではありません」

 改正案賛成の立場を明らかにした吉村氏は、維新の国会対応については「国会議員団が決めたらいいと思う」とも述べたが、結局、維新は党内議論を経て「賛成」を決定した。

 「野党」を自称する維新だが、実態は「第二自民党」のような政権補完勢力といえる。これまでもカジノ関連法案などの与野党激突法案で何度も政権と足並みをそろえてきたが、今回の改正案でも、野党のふりをしながら与党を援護射撃する「ゆ党」的対応をすることになったのだ。

 吉村知事人気で支持率も上昇傾向にある維新だが、民意を無視する安倍政権を補完しながら地元大阪への利益誘導(インフラ整備など)を勝ち取ってきたセコイ利益誘導型政党であることを忘れてはいけない。検察庁法改正案のような民意無視の法案成立に協力する見返りに、大阪万博やカジノ関連予算を政府から引き出す狙いが見え見えではないか。

 山場が来週にずれ込んだ改正案審議では与野党の攻防激化が確実だが、その中で維新がどんな動きをしていくのかも注目される。

【ジャーナリスト/横田 一】

法人名

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