危機に直面し、自らをイエス・キリストにたとえる孫正義の自信と勝負魂(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
ピンチをチャンスに
このインドネシア事業については、日本ではまったく報道されないが、他にもソフトバンクの進めるアジアビジネスは広範囲におよんでいる。とくに、「アジア電力網構想」は中国、モンゴル、ロシア、南北朝鮮を結ぶエネルギー供給ネットワークとして世界の投資家から熱い注目を集めている。この構想が完成すれば、モンゴルからの太陽光発電やロシアの天然ガスが朝鮮半島を経由して日本にももたらされる。当然、価格破壊が起こるため、日本の電力会社は存続の危機に瀕することになる。おまけとして、通過点となる北朝鮮の電力事情も飛躍的に向上するという目算だ。
いずれにせよ、孫は逆境に強い。厳しい事態に直面すればするほど、闘志が湧いてくるようだ。彼の片腕と称されるゴールドマン・サックス出身のマイケル・ローネンに言わせれば「マサのように恐れを知らない人物は見たことがない。彼は奈落の底から何かを見出して這い上がってくる」。
そして、今、孫は中国の習近平国家主席が進める「一帯一路計画」に対して、静かながら、深く係っている。とはいえ、そのことはほとんど知られていない。中国のエネルギー大手「ステイト・グリッド」と提携し、「グローバル・エネルギー相互開発合作機構」を立ち上げ、「一帯一路」沿線諸国へのエネルギー供給事業に取り組んでいるのである。太陽光や風力、そして小型原子力発電へと関心は広がる一方だ。
もちろん、膨大な資金調達には前代未聞のリスクが付きまとう。格付け会社の評価はまちまちだ。また、最大のスポンサーでもあるサウジアラビアのムハンマド皇太子への懸念材料も払拭されないままである。原油価格の急落を受け、サウジアラビアの先行きは暗雲が立ち込めるようになった。最大のスポンサーであるムハンマド皇太子の地位も危うくなってきた。
しかし、目前の山が高く、険しいほど、孫正義の闘志は燃え上がるに違いない。サウジアラビアが直面する国家存亡の危機的状況も、視点を変えれば、石油依存型経済から脱皮する千載一遇のチャンスになる可能性もある。孫の脳みそはフル回転しているに違いない。
トランプ大統領は「新型コロナウイルスの感染拡大の責任は中国にある」と見なし、同時に「一帯一路計画は中国の世界支配の野望の現れである」と警戒心と非難を繰り返している。とはいえ、そうした批判は表面上の方便に過ぎない。ビジネス最優先のトランプ政権にとっては中国の一帯一路計画も裏取引の材料に仕える格好の「ディール(取引)材料」に他ならないのである。
トランプ大統領としても、アメリカ発の小型原子力発電IFRを日本に売り込み、その結果、北朝鮮や中国、ロシアに恩を売ることになれば、万々歳であろう。そうした前代未聞のディールに日本人ビジネスマンとして食い込んでいるのが孫正義というわけだ。
COVID-19 という前代未聞の破壊力を持つ感染症に立ち往生し、世界経済は縮小する一方である。しかし、その裏で、新たな飛翔のチャンスをうかがう、しぶとい勝負師が復活を果たそうとにらみを利かせている。はたして、「翼をもったユニコーン」の登場になるのか、大いに注目せねばならない。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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