新型コロナ禍対策に見る〈政対官〉〈中央対地方〉の「ちぐはぐさ」の正体(1)
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前衆議院議員 緒方 林太郎
新型コロナウイルス(COVID-19)についての日本政府や各地方自治体の動きについては、これまでもさまざまな評価があると思います。今回、政治・行政の観点から、自分自身の目に見えていることを取りまとめて寄稿することにしました。なお、私は政治に携わる者であり、立ち位置は現野党に近いですが「批判のための批判」は一切しないようにしています。また、第一次資料に接しているわけではありませんので推測の部分が多いです。ただし、外から見ていて「最もあり得る分析」を書くように努めました。
(※4月30日記)最初の違和感
今回の新型コロナ禍について私が最初に疑問に思ったのは1月28日、感染症法における「指定感染症」とする政令が閣議決定された時でした。少し時系列的に振り返ってみると、昨年末からCOVID-19が中国武漢市で猛威を振るい始め、1月9日には最初の死者、16日には日本での感染者が確認され、国内でもCOVID-19感染拡大の懸念が広まっていました。
私は1月28日の感染症法の政令改正が遅かったとは思いません。ただ、1つだけ驚いたのは施行日まで10日の期間を開けたことでした。2月7日までの10日間は感染症法による対応をしないということです。たしかに感染症法違反には罰則がともなうので周知期間が必要だという理屈はわかります。通常(平時)の場合ならば、法の在り方として周知期間を置かなくてはならないでしょう。
厚生労働大臣は「内閣法制局が首を縦に振らない」と主張していましたが、COVID-19は人の命に関わる事案です。あまりの杓子定規対応に違和感をもちました。最終的には維新の鈴木宗男議員が国会質問で政府の姿勢をたしなめたことをきっかけに2月1日の前倒し実施となりました。あの鈴木議員の質問には、長年の政治経験から出た感度の高さがありました。
政治的な考慮から来る反応の遅延
当初からずっと違和感をもっていたのが、「感染症対策と関係のないものとを天秤にかけている」ことでした。主に「習近平中国国家主席の国賓訪日」と「東京オリンピック」が挙げられます。
武漢市でCOVID-19が猛威を振るっているなか、習近平国家主席が4月に国賓として訪日することなど到底無理であることは1月の時点ですでに明白でした。2月末、中国外交トップの楊潔篪共産党政治局員が訪日した際も延期については発表されず、最終的に3月5日に国賓訪日延期を発表。同日に中国からの入国制限が発表されました。政府は「(時期が重なったのは)偶然」と言っていますが、そんなはずはありません。少なくとも1週間、恐らくはそれ以上の期間は「中国のご機嫌を損ねない事」を重視するあまり、対策に後れを取りました。
東京オリンピックをめぐる動きも奇妙でした。3月24日に延期が決まるまで、東京都知事はできるだけことを大きくしないようにしているように見えました。一方、オリンピック延期が不可避となるタイミングで、突然「ロックダウン」という言葉を使い、日本全国に衝撃と混乱を与えました。しかし、早い段階で東京都知事は東京都の状況が危機的であることはわかっていたはずです。あの突如として出てきた「ロックダウン」という言葉から緊急事態宣言に至るプロセスは、それまでの(オリンピックを理由とした)出遅れを覆い隠す効果、もっといえば東京都知事の贖罪意識のようなものもあったのではないかと見ています。
今回の意思決定のなかで、COVID-19と関係のない別の案件とを天秤にかけたために意思決定に遅れが出たという面は否定できないでしょう。「科学」の要素よりも優先されたことがあったわけですから、対応が科学に基づかないものになったのは当然の帰結でした。今後の対応では、COVID-19関係で取るべき措置と「他の分野での成果」とを天秤にかけた対応は厳に慎むべきです。
(つづく)
<プロフィール>
緒方 林太郎(おがた・りんたろう)
1973年北九州市八幡西区生まれ。福岡県立東筑高校を経て東京大学入学。94年に東京大学法学部を中途退学、外務省入省。2005年外務省退職。09年衆議院議員初当選。14年衆議院議員2期目当選。17年落選。関連キーワード
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