ストラテジーブレティン(255号)~Point of No Return、米国の対中金融制裁が俎上に~慎重な投資姿勢を(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年7月1日付の記事を紹介。
6月30日、香港の自治と民主主義を根底から奪う「香港国家安全維持法」が中国全人代常務委員会で制定され、即時施行された。香港の民主主義と自治が失われ、一国二制度が終わった。二度と元には戻れない、Point of No Returnに至ったと考えざるを得ない。世界は熾烈な米中冷戦へと展開していくだろう。
米中冷戦の経済コストは看過できない
我々は先週まで、米中貿易戦争の下でも、米中両国は経済的悪影響を最小限に抑えるという節度を維持する、と想定してきた。中国はドル調達のゲートウェイである香港の国際金融センターとしての機能を失うわけにはいかず、そのためには香港の一国二制度を守るだろうと想定してきたが、そうはならなかったのである。中国は一国二制度が失われても、香港の金融機能は維持できる、いや力ずくでも維持すると考えているとしか思えないが、リベラルデモクラシー諸国は、とてもではないがそれを容認できない。また自由を失った香港にグローバルマネーが滞留することは不可能である。
対中金融制裁が俎上に
米国は最大限の対中制裁を打ち出し続けるだろう。遠い先のことと考えてきた金融制裁、ドル使用の禁止、事実上の対中金融封鎖といった事態も地平線上に上ってきた。昨年成立した香港人権民主主義法に加えて、米上院は6 月25 日「香港自治法案」を全会一致で可決した。下院での可決とトランプ大統領の署名を経て成立する可能性が高いとみられる(産経新聞6 月28 日付)。この法案は香港の自治制限に関与した個人や組織に制裁を科すもので、資産凍結、金融機関との取引の禁止、ビザ発給の停止などが可能になる。
ブルームバーグは6 月30 日「制裁対象の当局者の多くが中国の大手銀行を利用と想定される、米国の金融システムへのアクセスが断ち切られる可能性」という分析を報道した。
「ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の香港在勤シニアアナリスト、フランシス・チャン氏は6月30 日のリポートで、この法案は金融機関に制裁対象となる当局者への口座提供を禁じるものだが、こうした当局者の多くが中国の大手銀行を利用していると想定されると指摘。制裁違反と認定された銀行は、米国の金融システムへのアクセスが断ち切られる可能性があるとの見方を示した。中国工商銀行と中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行が2019 年末時点で抱えたドル債務は計1兆1000 億ドル(7兆5000 億元)相当。うち47%が預金で、残りが銀行間借り入れと国外投資家向けの証券発行によるもの。このドル資金が危険に晒される。」
それが発動されれば、直ちに中国金融危機に結び付く。今や米国はこの伝家の宝刀を隠そうとしないわけであり、市場は平穏ではいられなくなるだろう。当面警戒が必要かもしれない。
(了)
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