お仏壇のはせがわ中興の祖・長谷川裕一氏の経営者としての最終的総括(3)多角化のツケが露呈、その結果負の処理は人任せに
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支離滅裂な多角化のツケが露呈する
(株)はせがわの業績を、参照してほしい。多角化経営の辻褄が合わなくなり、当時、赤字決算が続出していたことがわかる。1989年から97年までの決算書では、当期純利益を平均で3億円以上を叩き出していた。ところが、98年3月期には純利益が半減し、1億9,130万円に急落した。多角化の失敗が多い隠すことができなくなり露呈し始めたのだろう。その陰で、長谷川裕一氏の実弟の房生氏(当時・専務)は、「こんなことをしていたら、会社は潰れる」と危機感を募らせていた。
前号で「99年11月に海外事業から撤退」の情報に触れた。99年3月期には2億7,636万円の赤字を計上しており、この時点で多角化の失敗を隠蔽することは不可能になっていたのだ。恐らくこの期の赤字を公表することに関して、社内で激論があっただろうと推測できる材料がある。「多角化の失敗の膿を出し尽くさないと、会社の未来はない」という房生専務の主張が社内で主流派を形成したことだ。このとき、裕一氏の引退に向けたスケジュールが確定したと言ってもいいだろう。
2000年3月期の赤字で、裕一氏の責任論が決定
海外事業からの撤退を表明した後の2000年3月期において、特別損失14.8億円を計上している。主な項目では海外投資損失4.3億円、長期金銭債権為替損が4.5億円、そして有価証券評価損が4.3億円である。その結果、「はせがわ」単独では9.2億円の欠損となり、また連結決算では7.5億円を超える赤字決算となった。
2000年6月29日の株主総会に筆者は出席したが、前もって次の質問状を提出していた。質問状の主旨は、(1)中国などアジアへの投資の損失は、今期で終了するのか、(2)この赤字の責任を取って社長を辞任してほしいとまでは言わないが、公的活動を一切止めて、裕一社長は事業に専念してもらえないかという2点であった。
この質問に対して、株主総会では社長の実弟である専務取締役海外事業本部長・長谷川房生氏が、「今期で損失を掃き出した」との明確に回答した。肝心の裕一社長は、「事業経営に支障がない範囲で、公的活動を行う」としおらしく明言した。しかし、このドラマはまだ続く。02年3月期から3年連続赤字であり、04年期にはなんと13億円超の赤字を計上した。さらに06年期は16億円に迫るほどの巨額の赤字を露呈させた。
「おや、2000年の株主総会の公約と違っているな」と違和感を抱く読者がいるかもしれない。だが、筆者には一目瞭然だ。裕一氏と房生専務の間では、責任の取り方をめぐって論争が繰り返されていたのだろう。だから、具の音もでない決定的な状況をつくり出して、裕一氏の社長退任を迫ったと筆者はみている。多角化・海外事業の損失累計が62.8億円に達したということまで公表されてしまっては、裕一氏も反論できる気力が萎えてしまうだろう。
命の恩人、実弟の房生氏が経営力で負の遺産を尻拭い
08年4月に、裕一氏は会長、房生氏は社長に就任した。「海外事業の損失も一掃し、新体制の構築するための人事」という大義名分が立つ。しかし、房生氏はなかなか優秀な戦略家である。兄の裕一氏も、何ら反撃できる余地すらなかった。多角化経営の損失を房生氏が表沙汰にしなかったら、「はせがわの倒産」はあり得ることだった。もし倒産していたら、裕一氏は、経営者として実績すべてを失ってしまう危険性があった。実弟を、「命の恩人」と感謝するしかない。
房生氏が社長に就任してからの14年期までの業績は、資料を参照してほしい。15億円の当期純利益を叩き出し、その最高の業績を踏まえて会長へ退き、裕一氏は相談役へ祭り上げられた。見方を変えると、仏壇のはせがわの「中興の祖」は房生氏といえる。房生氏の兄の復活の可能性を没滅させようとの執念は凄まじい。2年後の16年に会長職を投げ捨てて、房生氏は相談役に退いている。
こうなると裕一氏が、会社に復活することはあり得なくなった。房生氏は、兄の行きあたりばったりの多角化経営の後始末をしながら、「兄を2度とトップにさせないよう、会社の体質改善をしよう」という覚悟を決めた、いや、信念をもったに違いない。房生氏の采配の結果、はせがわの役員には長谷川家の関係者はゼロとなった。持株会社の長谷川興産(株)と裕一氏を合わせると、11分の3という大口株主ではあるが・・・。
振り返ってみると、「突進力」が信条の裕一氏はディフェンス能力がゼロだったからこそ、実弟の房生氏の経営力に助けられたのである。余談ではあるが、ベトナムでの不動産事業への投資の後始末には、房生氏は関与していない。(株)やずやの矢頭美世子会長が、この不動産事業を20億円で引き取ってくれたようだ。裕一氏は、矢頭会長にも再度尻拭いをしてもらったことになる。
(つづく)
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