リスクヘッジ時代、キーワードは「withコロナ」~模索する新しい働き方(後)
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新型コロナウイルスの感染拡大で自宅勤務やテレワーク化が急速に進み、この数カ月で働き方は大きな変化を遂げた。人口減や少子化、労働力減少などの余波で崩れかけていた従来の終身雇用型の労働モデルは、コロナ禍でさらに崩壊のスピードを加速している。働き方は今後どう変化していくのか。企業の動向や新しい動きに着目しながら考察する。
労働概念の変化と「ベーシックインカム」
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、経済活動の強制停止に踏み切った国や地域は多い。驚異的な感染力を持つ新型コロナウイルスに勝つためには人を「外出させない」ことがもっとも効果的という極めて合理な判断だが、強制停止という劇薬の副作用は想像以上に大きかった。企業の倒産やレイオフなどが相次ぎ、アメリカの失業率は史上例をみないほどに跳ね上がった。まったく収入を断たれた人も出たため、各国政府は一時的に国民の所得を保障する必要に迫られ、給付金を支給することで国民の命を守ろうとしている。
この「給付金」は、国が最低限の所得を保障するという意味では、広い意味の「ベーシックインカム」にあたるという見方もある。外出を制限されれば働くこともできないために、やむを得ず実施された消極的な所得保障だが、今回の新型コロナ禍を機にベーシックインカムを積極的に評価しようという動きもある。
新型コロナ禍によって「外圧的」に推進されたリモートワークは、はからずも「能力のある人(利益をもたらす人)」と「それ以外(ただ会社にいるだけの人)」を残酷にもはっきりとあぶり出すことになった。将来的に極端な効率化が図られるならば、利益を生み出す選ばれた人(エリート)だけがフルタイムで働くことを許されるSF的社会にもなりかねず、ラディカルな社会学者などはベーシックインカムの採用を半ば現実のものとして語るようになっているのだ。
定期的に国が最低限の収入を保障するベーシックインカムが実現すれば、給付金を支給されたうえで最低限の賃金で仕事を掛け持ちして生活する層が生まれるとされている。フィンランドでは2016年、国民2,000人を対象にベーシックインカムの社会実験を実施している。また、イギリスでは3月にジョンソン首相がベーシックインカムの一時的な実施を検討する考えを示しているが、実施には膨大な予算と準備期間が必要なため、あくまで「一時的」な政策とする姿勢をとる。
日本ではまだ具体的な議論はなされていないが、労働と収入は切り離せない問題であることには変わりない。もしベーシックインカムが導入されたら、仕事でさらなる収入を得るのか、それとも最低限の収入で暮らすのか。そうした根源的な問いに、1人ひとりが直面することになるだろう。
アフターコロナの仕事と暮らしを考える
「New Norm Consortium」のように新しい社会の在り方を模索する動きがあるなか、企業によってその対策や方針はさまざまである。その結果として、働き方の意識や環境づくり、意思決定にもかなりのグラデーションが生まれる。
従来とは異なる働き方が推進されれば、雇用する企業側には管理体制やビジョンの見直しが求められる。同時に、リスクマネジメントを最優先にしながら、少しずつ組織開発に着手していく必要もある。変化にいち早くフィットしていく柔軟な対応力が、働き手からも社会からも求められるのは避けられない。その先には「社会に必要とされる会社や事業だけが生き残っていく」という、実にシビアな側面も見え隠れするのだ。
そして、もっとも重要なのは働く側の意識改革だろう。定時に出勤して仕事をこなし、ポジションや給与が自動的に繰り上がる年功序列時代の終焉は、コロナ禍の影響でより早まったと考えられるからだ。
多様な働き方が提示され、労働スタイルの自由度が増す一方で、企業側の管理体制が徐々に成熟していく。それにともない、働く側はいかに成果を上げて会社にコミットするかを現実的に追求されるだろう。成果物によってシビアに人事評価されるようになれば、業務効率化は大前提のうえで、1人ひとりの自主性や自立が求められる。
働く側の意識が変わることで「働き方改革」は加速化する。ジョブ型の働き方が浸透すれば、近い将来には「働きたい」と思う人がより仕事に時間を使うようになり、「仕事=嫌なもの」という考えは時代遅れとなるだろう。
コロナ禍で企業も働く側も大きなダメージを負った側面はあるが、労働の概念そのものが少しずつポジティブな色に変化していくことは、そう悪くない未来だともいえる。新型コロナウイルスがもたらした働き方の変化は、キャリアプランだけでなく「生き方」を考え直すきっかけだと前向きに捉えたい。
(了)
【構成・文:チカラ・安永 真由】
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