元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書(7)駐インド各国大使館との交流(後)
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日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏
(6)ニューデリー紅茶商のミッタル氏
まじめで親日家、価値観も共有するミッタル氏とは意気投合し、刎頸(ふんけい)の交わりを結んだ。事あるごとに紅茶を持参し、社宅を訪問し、日印政治経済論議に花を咲かせた。
ミッタル氏はインド紅茶の名産地、ダージリンに紅茶畑をもっている。かつて橋本首相がニューデリーに訪問したときは、大使館がミッタル氏の店舗から1,000箱の紅茶を調達したことで有名になったが、当時から日本大使館の紅茶御用達の店でもあった。今では、現地に進出している日系自動車企業からの紅茶の注文も多いという。
ミッタル氏の2人の息子は後年、名門のインド工科大学デリー校に進学し、ともに父親の後をついで紅茶店2店を経営している。毎月、後継ぎの息子や孫娘からミッタル紅茶月報が届く。ミッタル氏は親切で飾らぬ人柄で信頼が厚く、氏のおかげで人脈が広かった。インド初代外務大臣や国防大臣、主要財閥の会長などを紹介してくれ、私のニューデリーでの人脈形成や情報収集で大変お世話になった。
なかでも、当時のギリ大統領一家に紹介してくれたおかげで、インド独立記念祭には毎年、日本商社駐在員代表として夫婦で招待を受けた。当時のギリ大統領、ガンジー首相に大統領官邸で挨拶できたことは光栄であった。大統領の令息や孫も貿易を手がけていたため、大統領官邸での朝食にたびたび招待され、関係を深めた。ニューデリー支店を離任するときは、わざわざ空港まで見送ってくれて感激したことを、今でもなつかしく想い出している。
ミッタル氏は私のニューデリー離任に先立ち、友情のあかしとして同店の紅茶ブランドに私の名前から「Juro Kocha」、娘の麻衣子の名前から「Maiko Jasmin」とそれぞれ名付けてくれた。この紅茶がJAL機内販売で売られているのを見つけたニチメンの同僚が購入し、ブラジルに駐在していた私に送ってくれた。今でも、我が家の食器棚に大切に保存してある。
ニューデリー離任前夜の我が家の訪問者リストに、ミッタル氏が次の言葉を残してくれている。“Our Mutual relations have been based on ABSOLUTE SINCERITY.-perfect goodwill and tremendous affection. All the best to you, Mr. & Mrs. Nakagawa and Dear Maiko.”(私たちの関係は、お互いの完全なる誠意、言いかえると友好や好意から築いたものです。中川夫妻と娘のマリコ氏の幸運をお祈りしています)。
ミッタル氏は後年、米国訪問時に東京に立ち寄ってくれ、久し振りに旧交をあたためた。大ファンである小野田寛郎少尉を紹介したところ、ミッタル氏は感激してくれた。小野田ご夫妻はミッタル氏を銀座のクラブ舞姫に招待し、小野田少尉が軍歌をうたって歓迎したときのミッタル氏の喜んだ顔が今でも忘れられない。
(つづく)
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)関連キーワード
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