ポストコロナ時代の新世界秩序と東アジアの安全保障(3)
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鹿児島大学 名誉教授 木村 朗 氏
「新型コロナウイルス危機」が起こってから、感染拡大防止のために都市封鎖や外出自粛が行われる一方で、経済活動が長期停滞するのを恐れて都市封鎖の解除や外出自粛の緩和が行われるなど、まさに混沌としている。しかし、コロナ危機の前後で私たちの社会と生活の前提が根本的に大きく変化したことや、急速なデジタル社会化が象徴しているようにこの変化が不可逆なものとなる可能性が高いことは明らかだ。
こうしたコロナ危機後の世界の有り様を踏まえて、ポストコロナ時代における新しい世界秩序を「東アジアの安全保障」という視点から考えてみたい。(2)南シナ海、東シナ海をめぐる緊張と対立
コロナ危機後の国際情勢は、米国衰退と中国台頭が加速するなかで、米中対立が激化する懸念が高まっている。その最前線は、南シナ海(南沙諸島、西沙諸島)や台湾海峡をめぐる米中間の緊張と対立や、東シナ海(尖閣諸島)をめぐる日中間の摩擦である。
米海軍は2017年10月以来、神奈川県横須賀市を拠点とする第7艦隊の管轄海域に原子力空母「ニミッツ」の艦隊が入り、原子力空母の「ロナルド・レーガン」や「セオドア・ルーズベルト」とともに、米海軍の空母11隻のうち3隻を集結させて、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮を威嚇するという「極めて異例の態勢」を取ってきた。
また今回のコロナ危機で、米国は、新型コロナウイルスの集団感染により空母の「セオドア・ルーズベルト」がグアムでの停泊を余儀なくされた。しかし、その後は態勢を立て直して、「ロナルド・レーガン」と「セオドア・ルーズベルト」はフィリピン周辺で、「ニミッツ」は太平洋東部でいずれも戦闘機部隊を引き連れて活動するなど、南シナ海などで軍事活動を活発化させている中国に対して、軍事的圧力を強めてけん制している。
コロナ危機が拡大するなかで、中国政府は南シナ海の西沙諸島と南沙諸島を管轄する行政区をそれぞれ新設し、両諸島の領有権を争うベトナムやフィリピンは強く反発し、波紋を広げている。中国政府は12年、南シナ海の各諸島を管轄する自治体として海南省三沙市を一方的に設置していたが、今回は同市内に行政区として「西沙区」と「南沙区」を新設した。中国政府は14年以降、南シナ海に次々と人工島を造成し、滑走路の整備やミサイル配備を進めてきており、行政区新設で軍事拠点化をさらに加速させると見られている。
こうした実効支配を強めて領有権を既成事実化しようとする中国の動きに対し、ベトナムとフィリピンは自国の主権を侵害する行為だとして抗議声明を出している。米軍艦船の乗務員から多くの感染者を出して一時は展開できなくなるなか新型コロナウイルスへの対応に追われていた米国も中国の動きを問題視して、ポンペオ国務長官は4月23日の東南アジア諸国連合(ASEAN)とのテレビ外相会議で「行政区の設置を一方的に発表した。強く反対する」と中国を批判したと伝えられている(『西日本新聞』20年4月25日付)。
米国は、第7艦隊とミサイル巡洋艦バンカーヒルが4月29日に、中国が人工島を造成して軍事拠点化を進める南シナ海の南沙諸島の付近を通航する「航行の自由」作戦を実施したこと、同月28日には同作戦の一環として、ミサイル駆逐艦バリーが中国の実効支配下にある南シナ海の西沙諸島の付近を通航したと公表した。
米艦船が南シナ海で連日にわたり「航行の自由」作戦を実施するのは異例で、第7艦隊報道官は声明で「(中国による)南シナ海における無法かつ見境のない主張は、航行や飛行の自由、すべての船舶の無害通航権といった海洋の自由に対し、今だかつてない脅威を与えている」と批判し、「一部の国が海洋法条約に照らして国際法で認められた権利の制限を主張する限り、米国はこれらの権利と自由を擁護する決意を行動で示していく」と表明した。南シナ海での中国の覇権的行動を決して容認しない立場を、強く打ち出しているのだ(『日本経済新聞』、『SankeiBiz』いずれも20年4月30 日付)。
(つづく)
<プロフィール>
木村 朗氏(きむら・あきら)
1954年生まれ。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、東アジア共同体研究所(琉球・沖縄センター)特別研究員、前九州平和教育研究協議会会長、川内原発差し止め訴訟原告団副団長。著書として、『危機の時代の平和学』(法律文化社)、共編著として、『沖縄自立と東アジア共同体』(花伝社)、『沖縄謀叛』(かもがわ出版)、『「昭和・平成」戦後日本の謀略史』(詩想社)、『誰がこの国を動かしているのか』、『株式会社化する日本』(詩想社新書)など著書多数。関連記事
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