新旧・伝説的相場師を追い詰めた監視委・佐々木事務局長(後)
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「証券検査畑のエース」佐々木清隆・監視委事務局長
金融庁は今年7月7日付で人事異動を発令した。証券取引等監視委員会事務局長兼公認会計士・監査審査会事務局長に佐々木清隆氏(54)が就任した。佐々木氏は、「証券検査畑のエース」と言われる人物で、「霞が関の役人のイメージは性分に合わない」と、アパレル会社の役員のようにファッションに凝る異色な官僚だ。
佐々木氏は1983年に東大法学部を卒業後、大蔵省(現・財務省)に入省したキャリア官僚。OECD(経済協力開発機構)に2度と、IMF(国際通貨基金)で計3度の海外派遣を経験している。
佐々木氏の名前が証券界に知られるようになったのは、2005年に監視委事務局特別調査課長に就任してから。特別調査課は証券関係の調査・刑事告発を担当する。ライブドア、カネボウの粉飾決算事件を摘発し、上場廃止に追い込んだ。「証券検査畑のエース」の異名が就いたのは、この時だ。
その後、金融庁検査局審議官兼公認会計士・監査審査会事務局長などを経て、今年7月から現職。監視委の職員の大半は金融庁官僚で、人事権も金融庁が握る。監視委に異動しても、長くて3年、早ければ1年で金融庁に戻る。そのため、専門家が育たない。証券用語を知らない監視委の職員もいるというお粗末な話もある。
ライブドア事件を最後に、監視委が不正を発見して筋書を描いて、世間の耳目を集めた大型案件はほとんどない。
特別調査課長としてライブドアを摘発した佐々木清隆氏が、監視委の強化のために、事務局長に戻ってきた。まず、世間の注目を集める案件をぶちあげる。そのために、「兜町の風雲児」加藤暠容疑者と「物言う株主」村上世彰氏を槍玉に挙げたと受け取られた。照準を定めた東芝歴代3社長の刑事告発
佐々木氏は、外国通信社のブルームバーグ(9月30日付)の取材に対して、法令違反に対する罰則強化の必要性を示した。
〈佐々木氏は東芝で問題となった開示検査についても重視していく意向を示した。「適正な開示が行われないということは、市場の公正性にとどまらずコーポレートガバナンス(企業統治)、日本経済発展の上でも極めて重要な問題だ」と述べた〉と報じた。
東芝をターゲットにすると示唆した発言だ。東芝の9月7日の決算訂正発表を受けて、監視委は東芝への本格調査を開始した。監視委は12月7日、東芝の不正会計問題で有価証券報告書に虚偽に利益を水増しする記載が繰り返されていたとして、金融商品取引法に基づき、東芝に対し73億7,350万円の課徴金支払いを命じるよう金融庁に勧告した。
監視委は問題の背景に、「コーポレートカバナンスの不備があった」と指摘した。
「課徴金を支払えばいいという問題ではない。再発を防止するために、根治する必要がある」。
監視委の佐々木清隆事務局長は、今後もコーポレートガバナンスの改善状況などについて、前例のない監視を続けていくとの考えを示した。課徴金を勧告した案件で、監視委が問題の背景にまで踏み込むのは異例なことだ。「日本を代表する大企業が起こした問題で、影響は大きい」と佐々木氏は説明した。次なる焦点は、東芝の西田厚聰・元社長(71)、佐々木則夫・元社長(66)、田中久雄・前社長(64)の歴代3社長の刑事告発に踏み切るかという点にある。「監視委は、歴代3社長の刑事告発に向けて東京地検特捜部と協議へ」。日本経済新聞(12月8日付)が報じた。
監視委は06年、証券取引法違反(現・金融証券取引法)で、ライブドアの堀江貴文元社長を東京地検特捜部に告発。ホリエモンの愛称で、ベンチャー起業家のスーパースターだった堀江氏は懲役2年6月の実刑判決を受けた。
監視委の特別調査課長だった佐々木氏は、ホリエモンを射止めた。目立ちすぎたライブドアが生け贄にされたのだ。ライブドアとは比較にならないほど悪質なのが、東芝の粉飾決算事件。東芝が日本を代表する名門企業のため、監視委は切り込まないと見られてきた。
事務局長として戻ってきた佐々木氏は、東芝の刑事告発に意欲満々とお見受けした。東芝3社長を塀の内側に追い込むことができるか――。東芝事件は最大のヤマ場を迎える。(了)
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