2024年12月24日( 火 )

ポストコロナ時代の新世界秩序と東アジアの安全保障(5)

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鹿児島大学 名誉教授 木村 朗 氏

 「新型コロナウイルス危機」が起こってから、感染拡大防止のために都市封鎖や外出自粛が行われる一方で、経済活動が長期停滞するのを恐れて都市封鎖の解除や外出自粛の緩和が行われるなど、まさに混沌としている。しかし、コロナ危機の前後で私たちの社会と生活の前提が根本的に大きく変化したことや、急速なデジタル社会化が象徴しているようにこの変化が不可逆なものとなる可能性が高いことは明らかだ。
 こうしたコロナ危機後の世界の有り様を踏まえて、ポストコロナ時代における新しい世界秩序を「東アジアの安全保障」という視点から考えてみたい。

トランプ政権による海外基地縮小の動き

 トランプ米大統領は6月15日、ドイツに駐留する米軍を約2万5,000人まで削減する方針を固めたとの報道を認め、ドイツが防衛費を増額しない限り削減を実行する考えを表明した。削減対象者数は約9,500人で、一部はポーランドなどほかの同盟国に振り向けられるという。米国が欧州防衛に過大な負担を強いられている、と以前から主張しているトランプ氏は「ドイツは支払い義務を怠っている」と改めて批判した(『共同通信』2020年6月16日付)。

 トランプ大統領は6月13日に陸軍士官学校の卒業式で演説し、米軍の仕事は「米国の存亡がかかった国益」を守ることであり、「終わりのない戦争」を戦うことではないと指摘した。また、卒業生の将来の仕事は「多くの人が聞いたこともないような遠い地の古代の戦闘を解決することではない」「我が国を敵国から強固に防衛することだ」などと米軍撤退への民主党や大手メディアからの批判に対して、自分自身の信念を率直に語っている(『ロイター』&『朝日新聞 DEGITAL』6月15日付)。

 韓国・聯合ニュース(6月12日付)によると、先ごろ駐ドイツ米国大使を退任したリチャード・グレネル氏は11日(現地時間)、独メディアのインタビューにおいて「トランプ大統領が海外に駐留する米軍を削減するという長期計画のなかで、駐独米軍の削減を指示した」と明らかにし、韓国、日本、アフガニスタン、シリア、イラクも削減の対象国だと言及したという。また「米国の納税者は、外国の安保のために多すぎる支出をすることに疲労を感じている」とも指摘したという。この報道をめぐって、韓国国防部は在韓米軍削減の可能性を否定したと伝えられている(『@niftyニュース』6月12日付)。

 このことは、トランプ氏が大統領選の時から打ち出していた米軍撤退や米軍駐留経費の負担増を同盟国に求めるという公約が単なる思いつきや金儲けのためではなく、米国納税者の負担軽減をはかり、米国の若者の生命を海外での不必要な戦争で失うことは許さないとするトランプ氏の揺るぎない信念であることを物語っている。

 トランプ大統領は就任以来、米軍による「前方展開戦略」を見直すことで「世界の警察官」の役割を放棄して、アフガニスタンやイラク、シリアなどからの米軍撤退を推し進めようとしてきた。トランプ大統領が朝鮮半島の和解プロセスが進展するなかで、在韓米軍の撤退の可能性に触れたことも記憶に新しい。

 しかしその一方で、そうした米軍撤退の方針が、民主党や共和党内の好戦派、大手メディアや学界、ウオール街、軍部、軍需産業のタカ派のネットワーク、すなわち軍産複合体と国際金融資本を中核とする「ディープ・ステート」などの多くの反対勢力によって、阻まれてきたことも事実である。「ディープ・ステート」については、『もう1つの日米戦後史―原爆投下から始まった欺瞞に満ちた戦後史』(詩想社)を参照してほしい。

(つづく)


<プロフィール>
木村 朗氏
(きむら・あきら)
 1954年生まれ。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、東アジア共同体研究所(琉球・沖縄センター)特別研究員、前九州平和教育研究協議会会長、川内原発差し止め訴訟原告団副団長。著書として、『危機の時代の平和学』(法律文化社)、共編著として、『沖縄自立と東アジア共同体』(花伝社)、『沖縄謀叛』(かもがわ出版)、『「昭和・平成」戦後日本の謀略史』(詩想社)、『誰がこの国を動かしているのか』、『株式会社化する日本』(詩想社新書)など著書多数。

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