九州の観光産業を考える(30)九州観光まちづくりAWARD真価探究

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ
大小・硬軟さまざま、着目すべき主役は物言わぬ客席側の広野に埋もれている
大小・硬軟さまざま、着目すべき主役は物言わぬ客席側の広野に埋もれている

JR九州の眼差しの先

 「西九州観光まちづくりAWARD」が2022年に創設されたのは、同年の西九州新幹線開業を九州旅客鉄道(株)(JR九州)が全国に知らせたいとの思いが発端のようだ。九州新幹線が九州アイランドの南北を結んで10年以上、観光行動の大動脈となっていることもあってか、同賞は23年に対象エリアを全九州に拡大。名称を「九州観光まちづくりAWARD」と改め、今年2月に、3周年を記念してシンポジウムを初開催した。九州のまちづくりや地域課題解決に取り組み、最高賞である大賞をこれまでに授与された4団体が登壇し、熱い思いを披露した。

 会場配布の冊子表紙にはまず、「JR九州×Discover Japan」とある。九州全域を網羅する交通インフラを担う事業者と旅行誌の共同実施の構図を取る。旅やまちづくりを発信する雑誌のコンテンツに見合う対象へ目が向くことは、鉄路にこだわらない審査基準に現れる。

九州観光まちづくりAWARD

<基本理念>
九州に根付き、魅力ある「まち」へと成長させる人物・団体を称え、地域の誇りになり、さらには旅人に感動を与えていく。

<目的>
九州で、その地域ならではの伝統・伝承を守りながら、未来に向けて新しい「もの」「こと」「風景」を生み出している方々に光を当て、その土地ならではの魅力を発信する。

<審査基準>
(1)「伝統」…そのまち固有の風土、歴史、伝承を尊重している。
(2)「進化」…既存の概念にとらわれず、未来につながる新たな価値を創造している。
(3)「循環」…豊かな自然を生かし・守り、持続的に発展している。
(4)「共働」…まち全体を巻き込みながら、尽力している。
(5)「多様」…旅人、住民を問わず、誰もが体感できる。

鉄道より高速広範なWEB

 「歴史、伝承を尊重」しつつ「既存の概念にとらわれず」という基準は、なかなかに高度な要求である。歴代の大賞、部門賞を眺めると、いずれもWEBを上手に展開しているようにうかがえる。「風土、歴史、伝承」を神妙に背景化し、「新たな価値」を“進化を目指す創造物”で注視させる。「よそ者」「若者」「バカ者」&「女性」の馬力と関与を筆者は感じる。

 二次交通どころか、一次交通のアクセスさえ遠ざかりつつある九州。優れた観光コンテンツでも、僻地化する箇所に在ることで日の目を見ず、尻すぼまりになっていく事例が多い実情と照らし合わせると、SNSを含む今様のWEBデザインを優先し、ネット流通できる商品を保有することが、時空を超えるネットサーフィンにかかる手立てと見えてくる。

 しかし、だからと言ってネットを駆使できない事業者、地域はお先真っ暗、現地訪問を一義的な価値表出とする観光地は絶滅危惧ってことに追いやってはならない。“不便”を“不満”とさせず、“特別な体験”へと転換するのが観光の一側面であり、懐深い顕彰制度の役割は、そうした周回遅れの走者、アピール下手へ“天の思召し”を啓示することでもある。“九州の元気”を追求するJR九州は、報われるに値する弱者へ“天の思召し”を指し示すことはできそうに思う。むしろAWARD応募資料の出来不出来、プレゼンの巧拙を超越する“天のお導き”があってしかるべしと考える。

勇断のパロトネージを

沿線の魅力アップに懸命なローカル鉄道をD&S列車の先兵へ
沿線の魅力アップに懸命なローカル鉄道を
D&S列車の先兵へ

    「新たな価値」=“サステナブルな価値”と、にわかには判じがたい。萌芽から果実を得るまでには、手間も時間もかかる。

 同AWARD候補者については、「一般募集(自薦・他薦)」とは別に「事務局推薦にて選定いたします」の一項がある。この事務局とは、JR九州の営業部のことらしく、“九州の元気”創発に奮闘を期待したい。さらにいうなら、一部局の人員体制ばかりでなく、全社的な情報収集・共有の体勢や目利き度を高め、段取り良い旅程で特別に遇される審査訪問とは別個に、まったくの一般客として目当ての地へ辿り着き、通常のサービスを受け、送り出される実相を俎上に乗せる吟味能力の発揮だ。

 旅まえ-旅なか-旅あと。名もなき旅行者が、一連の観光レジャー活動を通して味わう手間、値ごろ感、喜び、たまに不愉快。これらを評価軸へ乗せて、適切に分析できるシステム。日頃からJR九州の関係者が、覆面調査員のごとくアンテナを作動させて対象物を嗅ぎつけ、自らの懐具合に諮りながら、生身でサービスに接する。そこから忖度なく浮上してくる真に応援したい取り組みの種や芽をしっかり育て、開花させ、流通させるプロセスを同AWARDにぜひ備えていただきたい。

 それは単に企業の社会貢献活動にとどめず、自社の事業に組み込めるバイヤー的な立ち位置だ。JR九州の事業部門には鉄道、不動産賃貸、船舶、バス、不動産販売、ホテルがあり、外縁に流通・外食グループなどがある。有望株をどれかに関わらせることは可能だろう。このたびの登壇発表者の1人は、自身の事業推進、効果波及にJR九州からの資金を求める声を挙げた。同AWARDはアントレプレナー的な視座から、お手盛り、エコひいきを躊躇わず、“九州の元気”をあれこれ探り当て、プロデュースしていってほしいものだ。


<プロフィール>
國谷恵太
(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

(29)

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事