2024年12月23日( 月 )

クイーンズヒルゴルフクラブ クラブ会員による再度の民事再生申請(前)

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 内紛による訴訟を経て経営者が変わったザ・クイーンズヒルゴルフクラブ(以下、クイーンズヒル)に対し6月2日、クラブ会員4名が民事再生手続きを申請した。同クラブへの民事再生申請はほかの会員も申請し、今年3月に棄却されたばかりだ。申立人側は1,000名を超える会員から可能な限り多くの賛同の文書を集め、民事再生開始の認可に漕ぎつけたい考えだ。対する経営者側は賛同に同意しないよう依頼する文書を送付するなどして対抗している。今回は棄却された前回の申請とは様相が異なっており、趨勢が見通しにくい。決着は10月にもつく見通しだ。

弁護士が申請し棄却された民事再生法を別の弁護士らが申請

 今回民事再生手続きを申請したのは、クラブの総務委員長、同委員、エチケット委員、コース・ハウス委員の4氏だ。クイーンズヒルの委員会は先の3つと競技委員会、ハンディキャップ委員会の5つ。内訳は競技委員が約10名、その他委員会が4名ほどで構成される。各委員は理事会の承認を経たクラブ理事長からの依頼を受けるかたちで就任する。3年の任期だが、長期間に渡り継続して務める場合が多く、欠員が出た際に各委員の推薦などで補充されていく。こうした任命手順もあり各委員は企業経営者ら社会経験や地位のある人が多い。今回申請した4名もそうした人たちだ。理事は8名在籍していたが今年2月、任期途中で全員が辞任し、田原司代表取締役が3月1日に理事代行に就任している。

 注目したいのは総務委員で代理人を兼ねる三浦弁護士。今回に先立って申請された民事再生も弁護士2名によるものだったが叶わなかった。そうした案件にあえて取り組み、今回認められなければ、2度目の法律のプロの申請による失敗が刻みこまれる。弁護士としての評価にも影響を与えかねないだけに相応の勝算の裏返しとも取れる。

双方文書の応酬で会員に持論を展開

 前回弁護士が申請したにもかかわらず、民事再生が棄却されたのは、申請理由が過去の訴訟の延長線上にあると判断したからだ。2016年、クイーンズヒル創業者の長男である田原司氏が当時の顧問弁護士や社長を相手に株主権の確認を求め福岡地裁に提訴。3年におよぶ訴訟の末、昨年12月に田原氏が勝訴し、田原氏はクイーンズヒルの新しい代表に就任している。司氏は前回申請された民事再生について「(田原氏勝訴の)判決を不服とする元顧問弁護士や元社長らが企てたもの。自分から経営権をはく奪することを主たる目的としたもの」という趣旨の文書をクラブ会員に送付し、勝利宣言を行った。そうした経緯を承知のうえで、今回の民事再生法は申請された。そして、田原氏を経営から排除することを基本方針としている。

 申立人側はクイーンズヒルが債務超過で支払い不能の状態にあることを主張している。クイーンズヒルの負債は預託金返還債務118億円、田原一族の会社(有)アセットコーポレーション30億円、九州債権回収(株)20億円と営業上の取引債務だ。申立人側はクイーンズヒルの会員向けに送付した文書内で、クイーンズヒルがクレジット決済した客の立替払金を債権者から差し押さえられていることを公表。民事再生により差押が解除されなければ資金繰りが成り立たないと指摘している。そして、コースが荒れ放題となり、従業員が退社するという最悪の事態を避けるためにも民事再生は不可欠と主張している。公平性の維持に向けてスポンサーの支援を受け裁判所が選任した管財人に再生計画を立ててもらうという筋書きだ。裁判所による管財人の選任のためにも申立人は会員の賛同が必要として民事再生の開始と管財人の選任を要望する嘆願書を作成。民事再生申請後の6月9日付で会員に記名を求める文書を送付している。

 これに対して田原氏側は、申立人側が送付した文書は「会員に誤解を与え不安をあおり会員を利用しようとして作成された三浦弁護士の一方的な主張である」として、同意書に賛同しないように求める文書を6月16日に送付している。

経営実態を知り対応を変化する会員も

 6月の文書応酬から1カ月後の7月15日、申立人側は嘆願書の進捗状況を明らかにした。クイーンズヒルゴルフクラブの会員数は1,230名。そのうち153名が民事再生法の申請への同意書を送付しており、全体の12%から同意を集めたことになる。多いか少ないかの判断は難しいが、一連の訴訟から最初の民事再生に至る過程では会員から不満が聞かれた。「代わった経営者はクイーンズヒルのブランドを守る趣旨の挨拶分を送ってきたが、実際には受付でビジター客にスコア表を付けなくなるなどサービスの劣化を招いている」という声だ。しかし、表立って声を挙げる者は少なかった。不満はあっても「関わりたくない」のが本心で、ある会員は現状を問いただすところまではしたものの、「なるようになれ」と半ば投げやりな気持ちで同意書を送付しなかったという。

 一方で、傍観者的な立場で同意書送付に転じた会員が150を超える。そのなかで多く聞かれたのが料金に対する憤りの声だ。クイーンズヒルのプレー料金は会員8,200円で、ビジター平日2万200円、土日祝日2万8,600円とは大きな開きがある。また、ビジターが会員のバースデープランを使用して会員同伴でプレーすると、この春は平日2万200円が1万3,138円で利用できた。

 「クイーンズヒルの会員であることはステータス」(会員)だったのだが、4月ごろよりコロナ割引やLINE会員向けの名目で、実質的なクーポンの販売を開始した。平日の現金払いに限り3枚2万8,000円の回数券というもの。購入したビジターは会員が連れてきた同伴者より1人あたり約4,000円安くプレーできる計算だ。先の会員は「会員であるメリットは何もない」と肩を落とす。同意書を送付した別の会員も回数券の発行に不満を募らせたことに加え「セルフプレーを始めるという噂も聞いた。もしそうなれば高額な会員権を購入した意味がない」と指摘している。150を超える嘆願書の声はそうした危機感の現れといえる。

(つづく)

(後)

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