【BIS論壇No.325】欧米機密共有枠組ファイブ・アイズへの日本の関与
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NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。今回は2020年8月17日付の記事を紹介。
『日本経済新聞』(8月10日、13日、15日)によると、河野太郎防衛相は日本経済新聞とのインタビューで、米英など5カ国の機密共有の枠組「ファイブ・アイズ」との連携拡大に意欲を示したとのことだ。ファイブ・アイズは米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドのアングロサクソン系英語諸国が第2次世界大戦中の1940年代後半に結成された。
ファイブ・アイズはUKUSA協定に基づき、軍事機密情報の傍受、盗聴を行っている。そのためにスパイ衛星9機を赤道上空、情報受信機トランスポンダー3機を米国、アジア、アフリカ上空に打ち上げている。このスパイ・システムは「エシュロン」(梯子の隠喩)と呼ばれている。
地上の受信アンテナは10基、カナダ(1基)、米国(2基)、ニュージーランド(1基)、豪州(2基)、英国(2基)、ドイツ(1基)、そしてなんと最大クラスの受信アンテナが日本の青森県三沢基地にあるという。三沢基地の受信アンテナはロシア、中国、北朝鮮の機密情報収集に活用されているものと見られている。三沢基地のアンテナは撤去されたといわれているが、検証されていない。スパイ衛星システム・エシュロンについては欧州議会でも問題視され、調査が行われており、この秘密諜報システムの問題点が白日の下にさらけ出され、国際的な批判を浴びた。同報告書は具体的な例として、90年代の国際ビジネス分野での主要な28の傍聴、盗聴例を取り上げ、注意を喚起している。(同報告書82~92頁)。
日本関係においても、米国製乗用車の対日クォータ交渉、日本製排ガス規制情報をめぐって、CIAが通産省のコンピューターシステムに侵入し、ミッキー・カンター米通商代表(当時)に流したケースなどを同報告査が暴露している。(石川昭、中川十郎編著『知識情報戦略』税務経理協会、25頁)。河野防衛相は7月21日のトム・トゥーゲンハット英下院外交特別委員会委員長ら議員団とのオンライン会議において、日本がこのスパイ組織に参加し、6番目の加盟国になる案を提案したところ、英国側は「歓迎する」と前向きに応じたという。(『日本経済新聞』8月10日)
CIAやNSAの国際的な違法な盗聴問題については、両組織に勤務したスノーデン氏が、人権問題も絡めた不法な個人情報盗聴の実態について勇気をもって告発し、白日の下にさらした。人権問題、倫理問題が絡むファイブ・アイズへの参加には慎重に対応することが肝要であると声を大にして警告したい。
安倍内閣はイージス・アショア配備を見送る代わりに、敵基地攻撃など日本国憲法に違反しかねない軍事作戦強化の検討を始めている。日本は軍事情報収集組織に参加するよりも、国際的に遅れているビジネスインテリジェンス(経済、経営情報)の収集、分析活用組織構築に尽力することこそが肝要である。
内閣府が8月17日に発表した第2四半期(4~6月期)の実質成長率は年換算で27.8%減と戦後最悪だ。GDPが7年半ぶりに500兆円割れという惨憺たる状況にある。かかるときにアングロサクソンの軍事情報傍聴、盗聴スパイ組織に、資金や人員を投入することは時代錯誤ではないか。
感染が激増しているなか、コロナ禍対策と、戦後最悪の打撃を受けている経済の立て直しにまず全力を投入することこそ日本にとっての喫緊の課題であると認識すべきだ。
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)関連記事
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