2024年11月24日( 日 )

「新型コロナ」後の世界~健康・経済危機から国際政治の危機へ!(6)

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東京大学大学院法学政治学研究科 教授 小原 雅博 氏

 新型コロナウイルスはイデオロギーもルールも関係なく、国境や民族を越えて人類を襲った。そして今、コロナ危機は健康、経済から国際政治や外交、安全保障の領域にまで拡大している。
 東京大学大学院教授の小原雅博氏は近著『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(ディスカヴァー携書)で「危機はこれまでは、国家や民族意識を高めてきたが、今の私たちは監視社会でない自由で開かれた社会を築くと同時に、感染症に屈しない強靭な社会を築かなくてはいけない」と述べている。小原氏に新型コロナ後の世界について語ってもらった。

経済と安全保障の踏み絵~チャイナ・ジレンマ

 ――日本にとっての「チャイナ・ジレンマ」は、どう考えるべきでしょうか。

 小原 中国の「大復興」は、日本などの周辺諸国を始めとする国際社会に経済的チャンスを与えるとともに、政治や安全保障でのリスクをもたらしています。中国は、世界のGDPの17%を占め、日本の最大の貿易パートナーであり、海外に進出している日本企業の半数に近い3万2千社が中国に集中しています。

 日本経済にとって、米国進出企業数の4倍以上となる「中国進出企業数の重み」は無視できません。このことは在留邦人の安全や日本企業の投資の保護にも関わることを在上海日本国総領事の在勤中に痛感しました。日本は、今や中国から足を抜こうにも簡単には抜けない程に入り込んでしまっています。

 一方で、日本の国益を脅かす3つの脅威、すなわち、北朝鮮(核・ミサイルの脅威)、東シナ海(尖閣諸島周辺海域への中国公船の侵入)、南シナ海(地域覇権をめぐる米中の攻防と自由で開かれた国際秩序の維持)の問題に対処していくには、やはり日米同盟の役割が重要です。

 このような米中との関係が、日本に「ジレンマ」をもたらしているのです。つまり、中国との経済的利益と米国との安全保障利益をどう両立していくのか、という「踏み絵」をどう切り抜けていくのかが問われています。

米中両国の経済は緊密に結びついている

 ――対中関与政策をあきらめた米国は、米国と中国の「デカップリング」(切り離し)に向かっているようですが、日本はどう対応していくべきですか。

 小原 米国にとって、中国との切り離しを目指す「デカップリング」の意思は強いと感じます。習近平国家主席による「強国強軍」路線と共産党支配の強化により、米国は本気で身構えています。

 「強国強軍」路線は、米国に一極集中する構造から世界が多極化に向かうなかで、中国が経済・軍事パワーの増大とナショナリズムの高まりにより台頭することを意味しています。さらに共産党支配の強化により、民主化に逆行する共産党や習近平国家主席への権力集中、「見えざる党の手」が介在する社会主義の市場経済体制の強化、監視カメラやAIを駆使した監視社会化、言語・思想・宗教などの締め付けにつながるからです。

 とはいえ、米国が「デカップリング」により、すべての分野で中国との関係を切り離すことができるわけでもありません。これまで米中両国は経済や貿易を中心に、さまざまな分野で緊密な交流や協力を重ねてきました。なかでも米国の消費者が中国製の商品・サービスを用いないという「チャイナ・フリー」は容易に実現できることではありません。詳細は後述しますが、新型コロナへの感染が広がるなかで、医薬品の対中依存の高さも懸念されるようになっています。このような中国への依存関係はアメリカのみならずアメリカの同盟国にとっても同様です。

(つづく)

【金木亮憲】


<プロフィール>
小原雅博
(こはら・まさひろ)
 1980年東京大学文学部卒業、1980年外務省入省。1983年カリフォルニア大学バークレー校修士号取得(アジア学)、2005年立命館大学にて博士号取得(国際関係学:論文博士)。アジア大洋州局参事官や同局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事を歴任し、2015年より現職。立命館アジア太平洋大学客員教授、復旦大学(中国・上海)客員教授も務める。
 著書に『日本の国益』(講談社)、『東アジア共同体―強大化する中国と日本の戦略』、『国益と外交』(以上、日本経済新聞社)、『「境界国家」論―日本は国家存亡の危機を乗り越えられるか?』(時事通信社)、『チャイナ・ジレンマ』、『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本走向何方』(中信出版社)、『日本的選択』(上海人民出版社)ほか多数。
 10MTVオピニオンにて「大人のための教養講座」を配信中。

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