2024年11月24日( 日 )

「新型コロナ」後の世界~健康・経済危機から国際政治の危機へ!(7)

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東京大学大学院法学政治学研究科 教授 小原 雅博 氏

 新型コロナウイルスはイデオロギーもルールも関係なく、国境や民族を越えて人類を襲った。そして今、コロナ危機は健康、経済から国際政治や外交、安全保障の領域にまで拡大している。
 東京大学大学院教授の小原雅博氏は近著『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(ディスカヴァー携書)で「危機はこれまでは、国家や民族意識を高めてきたが、今の私たちは監視社会でない自由で開かれた社会を築くと同時に、感染症に屈しない強靭な社会を築かなくてはいけない」と述べている。小原氏に新型コロナ後の世界について語ってもらった。

経済的利益より安全保障が優先

 小原 日本のような米国の同盟国では、最終的には、中国との経済的利益より米国との安全保障が優先されるでしょう。しかし、安全保障以外の分野では、米国の同盟国といえども、中国との経済関係およびそこから生まれる経済的利益を維持したいと考えているはずです。日本の政府や企業にとって必要なことは、米国の対中規制法案や行政府の措置に抵触することのないよう、中国との協力やビジネスを点検し、リスクを回避していく努力です。

 同時に、米国の「デカップリング」を意識しすぎて、中国から「しっぺ返し」を受けるようなことのないよう、安全保障に関係のないビジネスや協力関係は日本の利益になる限り、維持していく努力をすべきでしょう。また、安全保障の観点から見直さざるを得ないビジネスや協力関係で、とくにグレーゾーンの分野に対しては細心の注意を払い、然るべき説明材料を集めて、慎重かつ賢明に事を進めることが必要です。

 日本が今抱えている大きな問題の1つに「高齢化社会」問題があります。日中以外の第3国での市場において、日本が必要とする人材の供給において、日本、中国、東南アジアの3者が協力する枠組み(第三国市場協力)のであれば、米国との関係上でも問題ありません。たとえば、中国の進めている「一帯一路」構想()の一環として、東南アジアに研修センターをつくって、介護訓練や日本語教育を受けた人材を日本に送るという構想が進められているそうです。このような協力を行う余地は、なお多く残されています。

 「デカップリング」と言っても、すべての分野に適用されるわけではなく、また適用させてもいけないと考えています。日本が注意すべき点は、米中間の競争が激しい分野に不用意に関わらないことです。米国の議会や行政府による規制に反せず、日本にニーズがあって日本の利益になるのであれば、どんどん進めればよいと考えています。もちろん中国の利益にならなければ中国との協力は実現しないため、中国とのWin-Winの関係をつくれることが前提です。何事も禁止するということは民族主義者の考え方であり、日本の国益にはつながりません。

 ※:中国からアジア、そして欧州やアフリカにまで広がる現代版「陸と海のシルクロード」と呼ばれる、インフラ建設主体の広域経済圏構想。^

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
小原雅博
(こはら・まさひろ)
 1980年東京大学文学部卒業、1980年外務省入省。1983年カリフォルニア大学バークレー校修士号取得(アジア学)、2005年立命館大学にて博士号取得(国際関係学:論文博士)。アジア大洋州局参事官や同局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事を歴任し、2015年より現職。立命館アジア太平洋大学客員教授、復旦大学(中国・上海)客員教授も務める。
 著書に『日本の国益』(講談社)、『東アジア共同体―強大化する中国と日本の戦略』、『国益と外交』(以上、日本経済新聞社)、『「境界国家」論―日本は国家存亡の危機を乗り越えられるか?』(時事通信社)、『チャイナ・ジレンマ』、『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本走向何方』(中信出版社)、『日本的選択』(上海人民出版社)ほか多数。
 10MTVオピニオンにて「大人のための教養講座」を配信中。

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