2024年12月22日( 日 )

ストラテジーブレティン(259号)~ファーウェイへの「死刑宣告」、その意味するもの~ハイテク市場で予想される地殻変動(3)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年8月25日付の記事を紹介。


 米国は8月に入り、以下の苛烈な対中ハイテク企業バッシング政策を相次いで打ち出した。
 (1)ファーウェイに対する半導体供給完全遮断。
 (2)中国・中国共産党を世界のインターネットから完全に排除する、クリーンネットワーク構想の提起。
 (3)動画掲載アプリTikTokの米国事業禁止。
 いずれも、7月23日のポンペオ・スピーチで表明された中国敵視戦略の遂行のために打ち出されたものであり、これまでの対応とはレベルが異なっている。

(3)TikTok米国での事業禁止

現代のアヘンになる可能性

 トランプ大統領は、欧米でも圧倒的な人気を誇る中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が安全保障上の脅威になるとして、ハイテクユニコーンであるアプリ運営会社のバイトダンスに対して、米企業への事業売却か、米国市場からの撤退を迫っている。

 ティックトックの買収にはマイクロソフト、オラクルが名乗りを上げている。日本経済新聞編集委員・西村博之氏は「Global Economic Trends」の「TikTokは危険なのか、代わるデータと国家の関係」(8月23日付)のなかで、この背景を以下のように分析している。

「若者が歌や踊りを披露する娯楽アプリが、どう国民の安全を脅かすのか。そして米政府はなぜ、強硬な姿勢をとるのか。背景を探ると、何でもないデータを武器に変えうるデジタル技術の進化と、中国の台頭に危機感を抱く米国の姿が浮かび上がる」

「米中央情報局(CIA)はホワイトハウスの指示でティックトックを調査し、潜在的な危険は否定できないものの、今のところ中国の情報機関がデータを収集した事実はないとの結論に達したという(Is TikTok More of a Parenting Problem Than a Security Threat?)」

「ティックトックが大量のデータを集めているのは事実だ。詳細な検証を行ったサイバーセキュリティー会社によると、アプリはスマホ内蔵のカメラやマイク、写真や音声データのほか、全地球測位システム(GPS)機能を使った位置情報、IPアドレス、ネット上の閲覧・検索履歴、ほかの利用者と交わしたメッセージにもアクセスできる。ところが驚くことに、こうしたデータ収集は『ほかのアプリとそう変わらない』という。高性能の携帯端末が普及した今、誰もが便利さと引き換えに知らず知らずのうち大量のデータをばらまいているのが現状なのだ(Understanding the information TikTok gathers and stores)」

「ユーザーの属性や閲覧履歴など無数のデータから趣向をつかんで自動的にコンテンツを推奨する抜群のアルゴリズムは、他のソーシャルメディアの追随を許さないほどアプリの中毒性を高めているという(For Whom the TikToks)」

「これによりティックトックが強力な文化戦争の兵器になり得ると見るのが、著名な歴史家のニール・ファーガソン氏だ。ティックトックは『アヘン戦争以降の屈辱の100年に対する報復であるのみならず、デジタル版のアヘンそのものだ』と指摘。『我々の子どもたちが来る中国の支配を喜ぶよう地ならししている』と主張する(TikTok Is Inane. China's Imperial Ambition Is Not)。実際、中国は大量のデータ獲得とAIを自国に好ましい『国際世論』醸成の重要な手段と位置づけている。自国内で用いている『社会操作』のグローバル版だという(Engineering global consent)」

 ジャーナリスト福島香織氏は、ネットメディア『現代ビジネス』に寄稿した「習近平は知らない・・アメリカが真っ先にTikTokを狙った本当のワケ」(8月22日付)のなかで、次のように分析している。

「2019年12月、米国防省は初めて、軍部に対しTikTokに安全リスクがあると警告し、今年1月から軍関係者の使用を禁止。7月に米上院国土安全保障・政府活動委員会で、米連邦政府官僚のTikTokダウンロードの禁止を求める法案が可決された」

「元ホワイトハウス国家安全保障委員会の官僚で、大西洋評議会デジタル・フォレンジック・リサーチラボ(DFRLab)のグラハム・ブルーキー主任はTikTokがもたらす米国の国家安全上の脅威を3つ挙げている。その3つとは、(1)中国政府にはTikTokからユーザーの個人情報提供を直接要請する能力がある、(2)ユーザーは個人情報をどのように利用されるか知るすべがない、
(3)投稿内容に対し中国が検閲できる、である」

「思うに、価値観、イデオロギーの異なる米中の戦において、TikTokの世論誘導力も、情報漏洩以上に脅威なのではないか。たとえば、トランプ大統領のオクラホマ州タルサ集会(6月20日)に100万人の参加申し込みがありながら、実際は6000人ほどしか出席せず、トランプのメンツ丸つぶれとなる事件があったが、これはTikTokユーザーの「ステージ上でトランプを1人ぼっちにさせよう」と呼び掛ける動画が広がったことが一因として挙げられていた」

(つづく)

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