【ラスト50kmの攻防(6)】活発化する長崎県の動き 佐賀県知事は「不快」感あらわ
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全線開業は長崎県の悲願
8月26日。九州新幹線長崎ルート(博多―長崎間)をめぐって、長崎県と佐賀県が火花を散らした。
唯一の未着工区間、新鳥栖―武雄温泉間の整備方式を決める前に、5つの整備方式に対応できる環境アセスメント実施という国交省の異例の提案を佐賀県が一蹴。これに対し、標準軌新線による全線整備を決めている長崎県は、中村法道知事、瀬川光之県議会議長、宮脇雅俊・商工会議所連合会会長(十八銀行会長)らが満を持して上京。政府・与党に武雄温泉―長崎間が開業する2022年度の翌23年度に新鳥栖―武雄温泉間を標準軌新線で建設するよう強く訴えた。
この日は、佐賀県庁で山口祥義知事の定例記者会見があった。政府・与党に対する長崎県の動きについて感想を求められた山口知事は、露骨に不満をまくし立てた。
「(長崎県が)要望活動していることに関しては、何としてもというかたちでやっていると側聞している。しかし佐賀県の思いを一顧だにせず、突っ走ることについては不快に思う」。
長崎ルートの全線開業という長年の悲願に奔走する長崎県への“惻隠(そくいん)の情”はまったくなかった。
山口知事は総務省時代、09年4月から2年間、長崎県庁に総務部長として赴任した。この2年間は長崎県政の転換期だった。赴任した09年11月、現職の金子原二郎氏(現・自民党参院議員)が突然、4選不出馬を表明。その2カ月前に民主党政権が誕生。金子氏の任期満了にともなう10年2月の知事選挙は7人が乱立する混戦となった。
結果は、自民、公明が推す前副知事の中村法道氏が、民主などが支援した農水省官僚を破って当選。山口氏は、知事選の争点にもなった長崎県庁舎を長崎市江戸町の長崎奉行所跡地から同市尾上町の魚市跡地に移転する「県庁舎整備基本構想案」の作成に総務部長として関与。当選した中村知事に報告した。
移転先の魚市跡地は、新幹線乗り入れで建替えられるJR長崎駅から徒歩5分の距離だった。「山口知事は、総務部長時代の経験から長崎県の新幹線にかける強い思いがわかっているはず。どうして、もう少し柔軟な考えがもてないのか。部長時代に嫌な目にあったのか、と勘繰りたくもなる」。自民党のベテラン衆院議員はそう話す。
二階幹事長も「なぜ佐賀県は反対するのか?」
26日、翌27日と中村知事らは、安倍晋三首相の健康不安説が流れる霞が関・永田町界隈を精力的に回った。要望の骨子は(1)23年度着工に向けて早急に新鳥栖―武雄温泉間の環境アセスメントに着手する、(2) 新鳥栖―武雄温泉間は北陸新幹線(東京―新大阪間)未着工区間の敦賀―新大阪間と一体的に整備財源を議論して確保する、(3)新鳥栖―武雄温泉間を標準軌新線で早期整備する、(4)標準軌新線建設にともなう地元負担やJR九州からの並行在来線(佐世保線・肥前山口―武雄温泉間)の経営分離といった諸課題を解決する、など。
首相官邸では菅義偉官房長官が出迎え、「これまでの経緯は大臣(赤羽一嘉国交相)から報告を受けている。しっかり取り組むように伝える」と応じたという。中央合同庁舎3号館の国交省では、鉄道局長に就任したばかりの上原淳氏、官房長に異動した水嶋智氏の新旧局長に頭を下げた。与党は自民党の二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長、今村雅弘政調会長代理、山本幸三幹線建設促進検討委員長、公明党の井上義久副代表らと会った。
このうち岸田政調会長に要望する際は、自民党長崎県連会長の北村誠吾衆院議員(地方創生担当相)ら長崎県選出の衆参議員も同席。岸田氏は「与党整備新幹線プロジェクトチームの座長として思い入れがある。しっかり応援したい」と述べたという。
また同席者によると、二階幹事長との面会では、二階氏の方から、「佐賀県はなんで反対しているの? どこの県も新幹線の建設をお願いして来るのに」と“逆質問”する場面もあったという。
こうした長崎県の動きと連動したかのように、佐賀県議会の自民党は新鳥栖―武雄温泉間の整備方式について「在来線の利用を模索しつつ、フル規格(標準軌新線)で整備した場合を想定して議論を進める」ことで一致。
9月2日には、県議会の新幹線問題対策特別委員会を開催。国交省の寺田吉道鉄道局次長と鉄道・運輸機構の湯山和利理事を参考人招致して、閉会中審査する段取りを決めている。
九州新幹線・長崎ルート新鳥栖―武雄温泉間の2023年度着工を、自民党の岸田文雄政調会長(左端)と今村雅弘政調会長代理(左から2番目)に訴える、長崎県の中村法道知事(右から2番目)、瀬川光之県議会議長(右端)=東京都千代田区永田町の自民党本部
【南里 秀之】
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