【ラスト50kmの攻防(8)】「これ以上はFGT開発に予算と時間を割けない」 FGT断念、国交省ひたすら陳謝
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3区間分で単年度50億円台の県負担も
佐賀県議会は9月2日、新幹線問題対策等特別委員会を開催。国交省の寺田吉道鉄道局次長らを参考人に招き、九州新幹線長崎ルート(博多―長崎)新鳥栖―武雄温泉間の整備の在り方を審議した。
質疑時間は5時間を超え、土井敏行、木原奉文(以上自民)、徳光清孝(県民ネットワーク)、中本正一(公明)各氏が寺田局次長を〈追及〉し続けた。質問は、国交省がこの区間に導入予定だった新在直通電車(FGT)に集中。与党整備新幹線検討委員長、国交省鉄道局長、鉄道・運輸機構理事長、佐賀県知事、長崎県知事の「六者」は16年3月、文書を交わしてFGT導入を約束していた。
寺田氏は、FGT開発に1997年度―2018年度の22年間と予算550億円を投入したと明かし、「安全性と経済性を考え、これ以上はFGT開発に予算と時間を費やせない」と強調。「鉄道行政として責任がある。申し訳ない」と再三陳謝した。
FGTは、新幹線車両の1.9倍~2.3倍割高な半面、最高時速は270km。時速300km時代の新幹線には使えない。木原氏は、FGT開発の断念を国交省が佐賀県に正式報告していない点も指摘し、「歯車が狂えば大変なことになる。(説明や謝罪は)持ち帰って検討してほしい」と追撃した。
「面子」ばかりではない。佐賀県の財政力は弱い。新鳥栖―武雄温泉間を標準軌新線で建設した場合、国交省の18年4月の試算で建設費は6,200億円。うち2,580億円は新幹線を運行するJR各社が30年間支払うリース料で賄う。残る3,620億円を国(国交省)と受益地域(佐賀県)が2対1の割合で30年間負担する。
佐賀県の負担は3分の1の1,210億円。これを30年間分割払いする想定だが、1,210億円の90%は地方債(佐賀県債)で資金調達し、一般財源の持ち出しは10%の121億円。地方債の元利償還金の50%または70%は国の地方交付税で補てんする。
その結果、佐賀県の一般財源持ち出し(実質負担)は665億円(または327億円)。これを30年分割払いで単年度平均22億円(または15億円)の支払いになるという。
ただ、佐賀県は九州新幹線鹿児島ルートで275億円、長崎ルート武雄温泉―長崎間で339億円の負担がすでに確定している。鹿児島ルートは2002年度から31年払い、長崎ルートは08年度から33年払い。支払いのピークは27年度の31億円。
新鳥栖―武雄温泉駅間が23年度に着工すると、3区間分でピーク時は単年度50億円台の負担も予想される。一方で佐賀県の一般会計予算は20年度当初で4,855億円。議会側は「佐賀県の財政規模に比して負担が大きい。通常の公共事業に支障を来しかねない」と不安視する。
地域負担金の算定では、地方債の元利償還期間を30年から50年に延長する、地方交付税の補てん率を拡大する――といった軽減策が浮上。必要なら北陸新幹線と別枠の整備枠にする可能性もあるという。
「アセス回答がフル規格容認とは考えていない」寺田氏
寺田氏は「佐賀県と5つの整備方式に対応する環境アセスメントの協議を進めるなかで選択肢のメドが立てば、財政当局やJR九州と調整のうえ法改正や制度改正も含めて考えたい」と踏み込んだ。同氏によると、新鳥栖―武雄温泉駅間の想定ルートは旧国鉄が1985年1月、環境アセスメントのために公表した佐賀駅経由のルート。建設費6,200億円は同ルートの延長約50kmが前提だ。寺田氏は「佐賀駅の旅客需要を取り込むには、このルート以外に考えられない」とした。
国交省は、23年度の北陸との同時着工を前提に5択の整備方式に対応可能な環境アセスを佐賀県に提案、いったんは回答期限を7月末と区切った。この日、寺田氏はアセスを今冬に始めると22年度に手続きが終了、23年度着工は可能と明言。「調査は猛禽類が営巣期の1月に始める必要があり、3カ月程度の準備期間を考えて9月中に回答をいただかないと難しい」と語った。
佐賀県議会の9月定例会は8日開会、30日閉会。県議会の自民党が、会期を念頭に国交省の考えを聴いたのは想像に難くない。木原氏は、「佐賀県がアセスに同意したからといって、フル規格(標準軌新線)に同意したわけではないと明言してほしい」と執拗なまでの念押し。
寺田氏も、「アセスの回答がフル規格容認とは考えていない。どういうかたちで(約束したら)いいか、持ち帰って検討する」と低姿勢を貫き通した。
【南里 秀之】
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