2024年11月14日( 木 )

【自民党総裁選】第二の故郷・横浜を平気で裏切る「ミスター叩き上げ」菅義偉官房長官の正体

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■大恩人を平気で裏切る冷酷非情

9月2日に出馬表明会見した菅義偉官房長官

 主要派閥の支持を取り付けて、一気に自民党総裁選大本命となった菅義偉官房長官(神奈川2区=横浜市西区・南区・江南区)が、都合の悪い質問に答えない一方で、地方出身「苦労人」の経歴を積極発信している。

 2日の出馬表明会見でも安倍政権継承を訴えた後、故郷・秋田から上京、横浜で代議士秘書を経て市議から国会議員へと上り詰めたことを振り返った。これに、御用メディアが飛びついて「苦労人」の政治遍歴を物語る映像を垂れ流し、「ミスター叩き上げ」という呼び名をつけて同調。共に世襲議員である岸田文雄・政調会長と石破茂・元地方創生大臣との違いをアピールする広報宣伝役を買って出たのだ。

 小池百合子知事と同等以上のメディアコントロール術(世論操作)に感心しつつ、2日の出馬会見で菅氏に声をかけた。司会者の坂井学衆院議員が終了を告げた直後に、「菅さん、横浜をカジノ業者に売り渡すのか。(安倍政権の)米国べったりの政治を引き継ぐのか。米国腰巾着政治と言われますよ。(大恩人の)藤木(幸夫)会長を裏切るのですか」という声掛け質問をしたのだ。

 しかし菅氏は無言のまま。他の記者も声をあげて会見場が騒然となったのを受けて司会者は会見継続を宣言。しかし、追加の質問者として指されなかったので、2度目の会見終了と言った後、「横浜にカジノ持ってきていいのか。(第二の)故郷を裏切るのではないか」と再び声掛け質問をしたが、それでも菅氏は一言も発することなく、会見場から立ち去っていった。

「ハマのドン」こと藤木幸夫会長は、林文子・横浜
市長がカジノ誘致表明をした去年8月、「命を張っ
てでも反対」と会見で明言

 声掛けの目的は、菅氏が世話になった藤木幸夫氏の名前を出すことで、「ミスター叩き上げ」の厚顔無恥ぶりを明らかにすることだった。地盤も看板もカバンもない横浜で菅氏が市議時代から支援を受けてきた大恩人が、「横浜(ハマ)のドン」こと港湾荷役業「藤木企業」の藤木氏だ。横浜港運協会会長を今年6月まで長年務め、林文子・横浜市長のカジノ誘致表明に対しては去年8月23日、カジノ推進の急先鋒の菅氏を「安倍首相の腰巾着」と断言、「命を張ってでも反対する」と徹底抗戦を訴えたのだ。

 この会見で藤木氏は、「顔に泥を塗られた。泥を塗ったのは林さんだけど、塗らせた人がいる」と切り出し、その背後にいるカジノ推進勢力を「ハードパワー」と表現した。そこで、「地元選出で影の横浜市長とも呼ばれている、林市長にも大きな影響力を持っている菅官房長官としか考えられないように聞こえたが」と質問すると、藤木会長は「それはあなたの自由」と否定も肯定もしなかった。そこでこんな再質問をしてみた。

 「菅官房長官は秋田から出てきて横浜が『第二の故郷』。若いときからよくご存知かと思うが、横浜に世話になった菅官房長官が横浜を米国カジノ業者に売り渡すような行為を推進する側に回っていることについて、どう思われるのか」

菅官房長官と太いパイプを持つ、林文子・横浜市長

 藤木氏はこう答えた。「いま『菅さん』という名前をあなたが言うから申し上げるけど、とても親しいですよ。いろいろなこと、昔から知っているし、彼もオレを大事にしてくれるし。ただ今、立場がね。(菅氏は)安倍さんの腰巾着でしょう。安倍さんはトランプさんの腰巾着でしょう。そこで国家安全保障という大きな問題があるでしょう。今の安倍さんも菅さんもトランプさんの鼻息をうかがって――。寂しいよ。寂しいけれども現実はそうでしょう。いずれにしても個人的な名前は省いて、いまハードパワーが横行している」「(米国の意向を受けて安倍政権がカジノを推進しているのかとの問いに)『うん』と言ったら、俺が言ったことになってしまうからね。俺は命を張ってでも反対するから。自分でできるのはそれだけだ。私は港湾人として、ハードパワーと闘うつもりでいるよ」

 2日の声掛け質問で「米国腰巾着政治」と叫んだのは、この藤木氏の発言を一部引用したものだ。藤木氏は「菅氏がハードパワー」とまでは言わなかったが、米国の腰巾着のような安倍政権が横浜へのカジノ誘致を招いたと言い切ったのだ。

 「ミスター叩き上げ」と呼ばれるようになった菅氏だが、大恩人である藤木氏が反対するカジノ誘致の旗振り役に徹し、横浜を海外カジノ業者に〈献上〉することで、第二の故郷で受けた恩を仇で返すような冷酷非情な対応をしていたのだ。藤木氏の盟友の小此木彦三郎・元建設大臣の秘書を10年以上務めた後、横浜市議を経て国会議員から官房長官にまで登り詰めた菅氏にとって、藤木氏は「後見人(育ての親)」のような存在だった。

■メディア選別路線は、「犬猿の仲」の小池都知事と同様

 第二の故郷・横浜がカジノ業者の賭博場となることに大恩人が猛反対しても、“米国腰巾着政治”の安倍首相に付き従うことで総理ポストをほぼ手にした菅氏。世話になった恩人や地域を平気で切り捨てながら、権力の階段を登り詰めていく冷徹非情ぶりは、小池百合子知事と重なり合う。「犬猿の仲」と言われる二人だが、似た者同士のいがみ合いといえるかも知れないのだ。

 記者を選別して都合の悪い質問には答えない「記者排除」の姿勢も、両者共通。菅氏も小池知事と同様、声掛け質問にまったく答えようとしないのだ。それと対照的なのが、岸田文雄政調会長。9月1日の出馬表明会見で指されなかったので、終了直後に声掛け質問をすると、菅氏と違って岸田氏は答えてくれた。

無難さが取り柄、岸田文雄・政調会長

(司会者が会見終了を宣言後)――カジノ見直しについて一言、お願いします。菅さんが推進しているので対抗する意味でぜひ。「見直すべきではないか」という考えを伺いたいが。カジノについて一言、お願いします。コロナ禍で見直すべきではないかと考えていないのか。

岸田氏 法律は成立し、さまざまな取り組みが進んでいる。こういったところがあります。個々の問題については現状、詳細を承知しておりませんので、法律に基づいて物事を進めていく考えと思っています。

 安倍政権の方針を繰り返しただけの回答内容には新鮮味がなかったが、会見終了後でも質問に答える誠実な姿勢は十分に伝わってきた。

 最も誠実で真摯なメデイア対応をしたのが石破氏だ。1日の出馬表明会見では、質疑応答の時間をたっぷり確保、全員が質問することができた。しかも、私の質問に対しては岸田氏よりも踏み込んだ回答が返って来た。

――安倍政権がコロナ禍で見直すべきだったのに見直しをしていない政策、一つはカジノ誘致について。コロナ禍で収益性が激減して「ビジネスモデルとして成り立たない」と言われている中でいまだに進めているが、石破総理となった場合に見直すのか。同じようにコロナ禍で(新幹線)乗客数が激減して赤字転落したJR東海が進める「リニア中央新幹線」についても。(安倍政権が決めた財政)3兆円の融資が焦げ付くのではないかと見られているが、これも見直すのか。

最も真摯なメディア対応をとる、石破茂元幹事長

石破氏 難しい質問です。カジノの是非よりも、コロナ禍において当面実現可能であるのかどうかということは冷静に分析する必要があると思う。幹事長時代にシンガポールのカジノをかなり長い時間見て参りました。いかに不正が行われないかということ、その設備は徹底したものであった。そして法律をきちんと作る。私は、損することを前提としたカジノ、もちろん自己責任はあるが、そこの運営は多くの人の理解が得られなければならない。カジノを否定するつもりはないが、このコロナ禍にあって本当にカジノが実現可能なのか。リニアについては、これは静岡の問題もありまして、そこを解決しないと先に進まないことがあります。リニアにおいて電力消費をどのように考えるのか。あるいは、リニアで東京と大阪が結ばれることがひとつの経済圏が形成されて、それが地方活性化につながるというロジックが今ひとつ理解できていません。

 鉄道輸送の重要性は今後、さらに重要になると思っておりまして、人口急減や高齢化社会到来で定時性を持つ鉄道の優位性は最大限活かせると思っています。そういう意味において、在来新幹線やリニア新幹線がもっと稼げる態勢を作っていきたい。

■「下僕の宰相・菅義偉」の化けの皮を剥ぐ

 安倍政権が進めてきた政策であっても石破氏は、カジノの実現可能性やリニアの地方活性化効果に対して疑問呈示をしたのだ。岸田氏よりも踏み込んだ発言と捉えたのは言うまでもないが、こうして総裁選三候補にカジノに関する質問(会見終了後の声掛けを含む)を投げかけることで、三者の特徴を実感することができた。

・不都合な質問に答えない菅氏
・誠実ではあるが、切れ味不足の岸田氏
・真摯でアベ政治に斬り込む石破氏

 〈党員投票なし・主要派閥の支持獲得・苦労人演出のメディアコントロール術〉で菅氏の圧倒的優位は揺るがないものの、一皮剥くと、大恩人の藤木氏を裏切り、第二の故郷・横浜をカジノ業者に売り渡そうとする冷徹非情な処世術が露わになってくる。「ミスター叩き上げ」と呼ぶよりも「下僕の宰相・菅義偉」という異名がぴったりではないか。菅氏が仕えてきた安倍政権は米国の要請に沿ってカジノ関連法案を成立させ、横浜などへのカジノ誘致を進めようとしてきた。そんな「米国益第一・日本国民二の次」の“米国腰巾着政治”の安倍首相を陰に日向に支えてきたことが、菅氏を総理へと押し上げた原動力のように見える。

 数々の権力者に媚びへつらいながら出世してきた小池知事と、最高権力者に黙々と仕えてきた菅氏とはタイプこそ違うものの、共通点がいくつもある。笑顔を浮かべても目は笑わないこと、メデイアコントロールの達人であること、そして世話になった人たちを裏切ってでも権力の階段をひたすら登り詰めていくことだ。

 嘘で塗り固めた「女帝 小池百合子」と同様、表の顔と素顔とのギャップが大きい「下僕の宰相・菅義偉」もまた、化けの皮を剥いでいく必要がある。

【ジャーナリスト/横田 一】

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